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『この星の絵の具で』小林正人



1. イントロダクション

現代美術とは一体なんなのか。
芸術に強い関心があるわけではないが、「現代美術」というものが気になっており、最近だと村上隆や猪子寿之(彼を芸術家に分類するのはやや違うかもだが)などのコンテンツを観ている。
私は幼少期の10年程をイタリアで過ごしそこで多くの「美しいもの」を観てきた。それらは実に素晴らしかったし、歴史的な価値を越えて私を感動させてきた。
対して、一般的に現代美術と呼ばれるものにはそれ程のものはなかった。無論、私の感覚にも何か要因があるのだろうが外的な要因として現代美術が一体どういう進化を遂げたのか。
そんなことを知りたいと思っていた。
そんな時にふと小林正人という現代美術家に惹かれ、この本を手に取った。

2. 小林正人

小林氏は優れた感性と誠実さ、そして構造を破壊するような気概を持っている。
本小説にはないが小林氏の「感性」のエピソードとしてこんなものがある。
小学校5・6年の時にキュリー夫人の伝記を読んで「見えないけどそこにあるものを捉える観察眼」に感動し、その観察眼を得るために毎晩夜空を眺めて「眼を洗う」ということを行ったのだ。(試しに私も気がついたら夜空を観てみることにしたが、ある種の瞑想的なものとしては効果があった気がする。)
また、時が進んで大学を卒業した後、「空」の絵を描こうとするのだが頭の中にあるもの理想の絵と現実にあるキャンバスや絵の具が結びつかず、苦労したりする。最終的には最初から「枠」を作らない、全てをバラバラにして一から作り上げるスタイルを取る。
(インタビューでは自身を「制約の中で作品を作り上げるスタイルと構造を壊すスタイルのうち自分は後者」と語っている。)
書評で私は氏の作品に心惹かれるものがあるとしたが、今考えると「自分で描いたものを塗りつぶしたり、切ったり貼ったりする」そんな自由さと破壊が面白かったように思う。


Unnamed #66


3. 結論ぽい何か

話は戻って、一体現代美術が何なのかということだが、そこはまだ分からない。
今回小林氏という素晴らしい芸術家と対峙してみてその一端は触れられた様に思うが、多くの人が大谷翔平を理解出来ないように、やはり根っこの部分から違う点が多く共感出来ることはなかった。
先に小林氏に関するアーティスティックなエピソードを紹介したが、キリスト教系の家庭であるのに目もくれず遊びまわったり、高校を2回留年して退学したり、と実は無茶苦茶な人間でもある。他人事ながら「せんせい」と出会わず芸術の道に進んでいなかったらどうなってんだと思うくらいである。
しかし、私が見てきた現代美術家の多くに共通するようにその熱意とセンスも人並み外れており、詰まるところ現代美術とはそういった芸術家達が今の枠組みを破壊もしくは修正していく営みなのではないかと感じられた。
参考として添付した作品にもそんな勢いを感じないだろうか。



4. さいごに

今回紹介した『この星の絵の具で』は3部作あるうちの第1作目であり、第3作はまだ執筆途中である。私としては1作目だけで十分面白かったし、続きが気になるような終わり方でもなかったが、3作目が完成したら2作目も含めて読んでみようと思う。
私は絵心なんて皆無だし美的な創作センスは平均以下だと自負しているが、感受性だけは環境のおかげで鍛えられたと思っている。そして、この本を読んで、優れた感受性の在り方や芸術に対する強い熱意を学べたのでまた一つレベルが上がった様な気がする。
最後に、この記事を読んでもし小林氏やその小説に興味が湧いた方は良ければまず氏のインタビュー動画や記事を見てみて欲しい。自信に満ち溢れながらクールに芸術について語る姿はかっこいいし、本に関することも話していたりするので、本から入らずここをファーストステップにしてみて欲しい。



〈参考インタビュー動画・記事〉

=TOP= of Masato KOBAYASHI (masart.jp)

クローズアップ藝大 | 第十九回 小林正人 美術学部教授 | 東京藝術大学 (geidai.ac.jp)


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