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【『能力』の生きづらさをほぐす】就活と「能力」【勅使川原真衣】

Ⅰ この本を選んだ理由

この本を選んだ理由は、最近「能力主義」について考えているからだ。
どうやらこの社会では「能力主義」というものが一つの大きな問題になっており、それを解消・緩和することがより良い未来の実現に繋がるということであるらしい。「らしい」としたのは、その問題を自分で的確に捉えている自信がなく、その向かうべき先もきちんと見えているわけではないためだ。
ただ、最近になって若干その輪郭が見えてきたようにも思う。そのきっかけとなったのは「就活」である。


Ⅱ 就活と「能力」

『就職拍手2023』によると、企業が重視するものTOP3は「①人柄 ②自社への熱意 ③今後の可能性」であった。
人柄や熱意というのは分かりやすいが、「今後の可能性」はやや分かりづらい。
これは言うなれば、「再現性」・「能力」のことであり求職者が過去積み上げてきた実績の中で要素を抜き出し、それがちゃんと将来的にも発揮されるかを見たいということだろう。例えば、3年間野球部でピッチャーを務めた人は、ゴリゴリの運動部でも意欲的に続けられるという忍耐力や継続性の要素をPRして、企業はその再現性・その要素が自分たちにとって有力かを考える。
しかし、一体何の「能力」「要素」をピックアップして相手に伝えれば最善なのか、相手方の判断基準も曖昧かつ恣意的なものである以上、就活生は強い不安を抱かなければならないことになる。(むしろ、受験など今までの選抜方法はきっちり決まり過ぎていて不自然なんだろうが。)
この頃から、「能力」という言葉についてもう少し整理して考えたいと感じるようになった。

・ 社会人基礎力

先にも書いたように「能力」という言葉では抽象度が高いので、就活レベル程の具体的な事象に関して考えるにはもう少し現実的な指標を用いたいと思う。丁度いいので、2006年に経済産業省より「多様な人々と仕事をしていくうえで必要な基礎的な力」として定義された「社会人基礎力」なるものを引っ張ってくる。これはキャリア教育の中ではたびたび聞く用語なので、それなりに就活とも結びついている。
社会人基礎力は3つの能力と12個の能力要素で成り立っている。

能力①:前に踏み出す力(アクション):「一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力」

  • 主体性  :物事に進んで取り組む力

  • 働きかけ力:他人に働きかけ巻き込む力

  • 実行力 :目的を設定し確実に行動する力


能力②:考え抜く力(シンキング):「疑問を持ち、考え抜く力」

  • 課題発見力:現状を分析し目的や課題を明らかにする力

  • 創造力  :新しい価値を生み出す力

  • 計画力  :問題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力


能力③:チームで働く力(チームワーク):「多様な人々とともに、目標に向けて協力する力」

  • 発信力:自分の意見を分かりやすく伝える力

  • 傾聴力:相手の意見を丁寧に聴く力

  • 柔軟性:意見の違いや立場の違いを理解する力

  • 情況把握力:自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力

  • 規律性: 社会のルールや人との約束を守る力

  • ストレスコントロール力:ストレスの発生源に対応する力

当然これは「基礎」であって具体的には各々の企業によって必要な能力やスキルは足されていくだろう。
ただ、少なくとも能力の面でいえば、企業の採用担当はこれら各項目についてスコア付けを行うということは大枠としては外してないはずである。企業は自己PRでの主張に耳を傾けつつも、あの手この手でこれらの能力を満遍なく図っていこうする。

・ で、どうやって図るのか

しかし、企業と求職者の接点なんて、ESの1000字程度とトータルでも数回の面接である。その限られた中で個人の能力を把握することなんて可能なんだろうかという疑問が出てくる。何年も採用に携わって何千人という学生を見てくれば、多少の目利きもつくのかもしれないが、やっぱりどう考えても難しいように思われる。そもそも、上のような「能力」は言葉にすると分かった様な感じもするがどこか釈然としない。そんなものをどうどう捉えれば良いのか。


Ⅲ 関係主義

ここら辺から、「能力」という曖昧な要素や指標に足を突っ込むのが得策でないように感じてきた。泥沼に嵌っている。

長い回り道をしてしまったが、ここで本書の内容を思い出したい。つまり、「能力」という雲のような存在を掴もうとしすぎず、外部的な環境や関係性も追加の視点として加えようということである。
思えば、企業が重視するもののトップ2は「人柄と熱意」であった。企業としても実はこのことを分かっているのである。
純粋に「能力」が高い人たちを集めても烏合の衆になるし、そもそもそんなものは掴めないのだから、組織としてのまとまりを考えるならば「個人間」の動きについても十分に気を配らなければいけない。
「学歴フィルター」云々と騒ぐ人々は恐らく「個人内の能力」でほとんど片が付くと思い込んでしまっている。「能力主義」のドツボに嵌っていると言って良い。実際、私もそのような見方をしていたので、本書は解毒剤としてかなりためになった。

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