虎に翼 第78回 お父さんに似ちゃった
お父さんに似ちゃったかー。
自分の「ダメなところ」と思っていたところが、実は父譲りだと知り、その瞬間にぱーっと明るく笑った優未の心を思うと切なかった……。
優未の場合、すんっとしてしまうのは、自分がどういう人間かわからないもどかしさの表れでもあるんだよね。お腹がぎゅるぎゅる、と言われて寅子は一瞬で優三さんの、寅子だけが憶えているとんでもないほどの強さと優しさに包まれた。
そして優未は自分の「ダメなところ」がどこに由来するのか、教えてもらえそうだと(言葉でそう思ってはいないかもしれないけれど)嬉しくなったんだよね。猪爪家で優三さんのことを「優しい、良い人だった」以上にインパクトのある言葉で語れるひとは、せいぜい直道さんだけだったのかな、とも思う。優三さんが出征するとき、甥っ子たちに「優未のことをよろしく」と言っていたけど、ふんわりとした叔父さんという以外に具体的な思い出がどれだけ彼らの中に残っていたものやら。直明くんもね……。戦争中、みんなと離れていてどれだけさみしかったか、という直明くんの「まだきちんと語られていない記憶」が、もしかするとたくさんあるのかもしれない。
自分の話で恐縮だけど、子供の頃、集団が怖かった私は学校へ行く前にお腹が痛くなってね。かかりつけの小児科の先生は自家中毒の病名を出して母を安心させた。同時に「本人が痛いと言うなら、それは本当に痛いのだから、休ませてあげなさい」と言ってくれた。
母自身、心臓に疾患ありと子供時代から宣告されて、したいことを制限されたり、元気なのに体育は見学だと「ずる休み」と言われたり、とくに体育教師に「わがままなだけ」と言われて相当な心の傷になっていた、らしい。だから、私がちょっとでも「ふつうと違う」ことに対してはいつも過敏なほどに神経を尖らせていたのだと思う。
『虎に翼』はフィクションだけど、私の記憶(リアル)とちゃんと地続きの物語なんだよね。