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アンタレスの輝き

新居祝いのお宅で、夕食のあと、庭に出て花火をすることになった。
手持ち花火と水の入ったバケツが用意されている。

庭に出た私は、目の前に広がる南の空に吸い込まれるようにして、一瞬で目を奪われた。

生まれて初めてだ。
肉眼で蠍座を見たのは。
あ、あれが一等星のアンタレス!
プラネタリウムで見た通り、蠍座は南の空の低い位置にある。

ここから眺める風景には、視界を遮る物がない。
郊外の町だからこそ、こんな星空を見られるのだ。

感動で胸がいっぱいになり、花火のことを忘れかけた。

ろうそくの火を花火に移してからも、蠍座が気になって、ちらちらと眺めていた。

幼子(おさなご)が私の気を引こうと、花火を動かす。
花火が服に燃え移ると危険だということが、まだよくわからない子をあやしながら、安全な遊び方を教える。

幼子が落ちつくと、私はやはり花火よりも蠍座に夢中だった。

残念ながら、お邪魔した新居の南側に、間もなく家が建つそうだ。
次の夏からは、庭で今と同じ風景は見えない。
こんなふうに目の前で蠍座が輝く夜空を見る機会は、最初で最後になるかもしれない。
なおさら目を離せなかった。
私以外は皆、花火に夢中でも。

家主(やぬし)に肉眼で蠍座を見られる感動を伝えても、あまり関心をもたれなかった物足りなさを、線香花火と一緒に燃やした。

線香花火の先っぽにできた玉を、蠍座のアンタレスに見立てて、視界に蠍座を描いてみた。

またも構われたがる幼子は、先っぽの玉を落とそうなどとする。
落としてなるものかと攻防を繰り広げ、玉を死守した。

花火が終わったあとも、しばらく皆で庭で涼んでいた。

幼子と手を繋ぎながら、再び蠍座に目を奪われた。
蠍座は、夏が苦手な私にエネルギーをくれているような気がした。


作品背景

この作品は、京都の手作り時計・アクセサリー販売店【DEDEGUMO_KYOTO】様の企画「煌めく12星座のストーリー」のために、同じ出来事(思い出)を2パターンで書き下ろし、使わなかったほうの作品です。

2パターンのどちらを使うかは、挿絵担当の𝐒𝐚𝐐𝐙𝐚𝐐(サックザック)さんの率直なご感想と、私自身の「こちらのほうがいいかもしれない」という思いが一致し、決まりました。

後日、星座時計のご購入特典リーフレットに掲載された作品のテキストも公開いたしますが、ぜひともリーフレットで、素敵な挿絵とともに作品をお楽しみいただければ幸いです。

ご購入特典としてリーフレットがつくのは、本日2023年3月23日のご注文分より。
埋め込み記事の写真で、リーフレットの表紙はご覧になれます。

なお、本作の公開にあたっては、事前にDEDEGUMO_KYOTO様へご相談・確認済みです。

企画詳細・商品情報

埋め込み記事には、購入ページのリンクもあります。

※当初、別の記事を埋め込んでいましたが、企画に関する最新記事を埋め込み直しました。


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夕月 檸檬 (ゆづき れもん)
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