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【経営メモ】強い組織の作り方、パフォーマンスの悪い社員への対応について

今日は強い組織の作り方について書いてみたいと思う。
強いマネジメントチームに関しては、「組織とリーダーシップ」の記事で書いたが、今回は、現場レベルの組織を強くする方法である。

1.ジャックウェルチの10%ルール

強い組織を作る方法として、有名なものに「下位10%の社員を解雇」するというものがある。これは、1990年代に一世を風靡した経営の神様、ジャック・ウェルチの人事論である。

社員は、上位20%、中間70%、下位10%にランク付けされ、上位20%のスタープレイヤーには、特大の褒美が与えられ。中間の70%は訓練とコーチングで積極的に育成を行い。最も成績の悪い下位10%を絶えず切り捨てて、より優秀な社員を求めて、組織を活性化させていくという、苛烈な人事論である。

下位10%の人材に、リソースを割いて、教育したり、研修したりするのは、企業からすると効率が悪い。解雇をして、その席に、より優秀な可能性のある人を雇うのが、企業の合理性にかなうというものである。

あるマネージャーが、「自分の10人のスタッフは、皆、頑張り屋で、誰か一人だけが、飛び抜けてダメだということがない。それでも、かならず序列をつけて、一番下の人を解雇しなければならないか?」
とジャックに聞いたところ、
「あなたの部署を長期的に繁栄させたいならば、スタッフにランクをつけ、僅差であっても、一番下位のスタッフには辞めてもらうべきだ。」
とジャックは答えた。

ある意味、プロフェッショナルスポーツチームに近い考え方である。日本のプロ野球などは分かりやすい例である。毎年、ドラフトなどを通して、新人の選手を雇用する。同時に、基本、新規雇用する数だけの既存の選手を解雇するという運用である。この運用によりチームは常に活性化され、また、new faceから次のスター選手が誕生するのである。

この「ジャックウェルチの10%ルール」に関しては、賛否が分かれるところで、一概に正しいとも悪いとも言えない。ジャックウェルチが社長を務めたGEの業績が彼の晩年に傾いた事から、一般的には、「ジャックウェルチの10%ルール」は上手くワークしなかったというのが、大勢の見方となっている。(働きアリ理論で、下位10%を解雇しても、常にさぼりアリが一定数発生するので、上手くワークしないという説もある。)

一方、企業業績は自社の事情以外に、マクロ経済、災害、市場環境など複雑な要因に影響されるが、よりシンプルな環境要因で成り立っているプロスポーツにおいては、今日でも、「ジャックウェルチの10%ルール」は実行されているので、一概に悪いルールとも言えない。

私は、「ジャックウェルチの10%ルール」には反対で、実際に社長として実行したことはない。日系企業にある「企業で人を育てる」という文化と相いれないということもあるが、それ以上に、このルールがワークしないと思うのは、職場の雰囲気が殺伐となり、ベストパフォーマンスが出なくなることが容易に想像できるからだ。

ソニーの設立趣意書にある。「技術者の技能を最大限に発揮させる、自由闊達で愉快なる理想工場」「社員は、形式的職改制を避け、実力本位、人格主義の上におく」などの思想と全く相いれないからである。

今日では、広く知られるようになった「フロー理論」(時間を忘れるほど没入して働いた時に、素晴らしい成果を出せるという理論。)が、設立書の「自由闊達で愉快なる理想工場」として、いちはやく実現されていたのがソニーである。そして、ソニーはその力で、大きく躍進した。

「ジャックウェルチの10%ルール」は、この「自由闊達」というソニースピリッツとは、全く相容れないのである。

2.放置されるパフォーマンスの悪い社員

いずれにせよ、今日においては「ジャックウェルチの10%ルール」をそのまま実施している企業は極めて少ない。では、あからさまにパフォーマンスの悪い社員がチームにいても、解雇には向かわず、その状態を長期的に保つべきか? に関しては、私は職場配置転換、更には、解雇も視野にいれるべきだと思う。

あからさまにパフォーマンスの悪い社員が、長期的に職場にいる。ある意味、放置されているというのは、会社に、とても大きなダメージを与える。

社員の間では不公平感を感じる者が現れたり、また、不都合な状況に、いごこちが悪いと感じる者が増えたりすることで、マネジメントへの不信感が生じ、結果として組織が引き締まりのない状態に落ちってしまうことが多々ある。

それは、社内サーベイの、「パフォーマンスの悪い社員への会社の対応に不満がある」という数値にも現れる。

これまでの私の経験では、新しい現地法人に着任すると、かならず、あからさまにパフォーマンスの悪い社員が、数名、放置されているのを見かけた。

新し会社に着任して、特に最初の3ヶ月間は精力的にできるだけ多くの会議に参加し、現場のスタッフと会話するのだが、その中で、少し話が成り立たない社員を見つけることになる。

機会がある時に、その上司と会話をすることになるが、ほとんどの場合、上司はその社員が、かなりパフォーマンスの悪いことを認識している。そして、次に、そうはいっても、根はよい人であるとか、真面目でいい人なので、とても解雇できずに、ある意味、放置した状態となっていると説明する。

パフォーマンスが悪い社員には、正面から向き合うのがマネージャーの仕事だが、これはかなり辛く、面倒な仕事である。ジャックウェルチが、10%ルールを決めた背景の大きな理由の1つが、なんだかんだと理由をつけて、マネージャーがパフォーマンスの悪い社員へ対応しないということから、強制的に行動を起させるように10%という、具体的な数字を定めたというのも理解できるところがある。

3.パフォーマンスの悪い社員への対応

パフォーマンスが悪い社員への対応は、とても重要な仕事である。本来、マネージャーの職務の内、最も重要な職務の1つといってよい。それは、会社の業績を上げるためということもあるが、何よりも、その職場で活躍できずにくすぶっている人のキャリア、人生とちゃんと向き合うということが、より重要になる。

日本の場合は、終身雇用という言葉が広く浸透しており、それが、マネージャー側(ひいては会社側)にも、社員側からも、「正面から向き合う」機会を奪うことになっている。

パフォーマンスの悪い社員への向き合い方の要点は以下の通りとなる。

  1. 礼儀、尊厳を持って、伴走する

  2. どこがLow perfomanceなのかをクリアーに伝える

  3. 改善するためのポイント、スキル、技術を伝授する

  4. 毎週、隔週など、定期的にmeetingを持ち、進捗を双方で確認する

  5. Meetingの内容を簡単なメモとして、社員とシェアをする (人事部をccとして入れてもよい)

こうした、ルーティーンmeetingを行い、社員のパフォーマンスに進歩が見られるようであれば、ありがたい。このプラクティスを継続すればよい。

3ヶ月、半年と伴走しても、進歩が全くみられない場合。それは、残念ながら、その仕事には適性がないということである。適性がない仕事を続けていても、会社にとっても、更には本人の大事な人生にとっても、よいことはないので、別の仕事を探すことになる。

チームの中、会社の中でトライできる仕事があり、空席があるようであれば、それにトライする。若しくは、役職がある場合は、降格してチームに留まるという選択肢もある。(実際、オーストラリアでは、数件こうしたケースがあった)会社の中でトライできそうな別の仕事が見当たらない場合は、社外でより適性がありそうな仕事にチャレンジすることになる。

マネージャーがしっかりと、本気でパフォーマンスの悪い社員と伴走した結果、社員が会社を辞めることになったケースで、社員と会社が揉めたことは、私のキャリアでは一度もない。

異なる国、異なる労働法の環境下でも、伴走のプロセスは基本同じで、大きく変更したことはない。肝要なのは、マネージャーが本気で寄り添い、伴走することだ。そうすると、残念ながら適性がないと判断するに至った場合の社員とマネジャーの間に、理解の齟齬は生じず、次なるステージへ駒を進めることができる。

社外に出て、新たな仕事に挑戦し、元気な姿で、元の職場に顔を出す、元社人を何人も見たことがある。人には向き不向きというものがある。不向きなものに多大な努力を費やしても、その努力は報われない。同じ社員が自分に適性の合う職に替わり、正しい努力がされた場合は、見違えるような成果がでるものである。

4.社長とマネージャーの間に理解の不一致がある場合


マネージャーが人事業務への理解があり、スムーズにパフォーマンスの悪い社員と向き合うプロセスに入れる場合はよいが、たまに、社長(である私)とパフォーマンスが悪い社員(と、私が評価している社員)に関しての評価が合わないケースがある。

その場合は、なるべく、その社員が発表する機会があるような会議に、私は自ら出るようにする。そして、会議中でその社員の発表に対して質問をする。スムーズに対応できるようであればよいのだが、上手く回答できないケースが多い。

Follow upメールのやり取りがあれば、私は直接その社員とメールのやりとりをして、おかしな点を指摘する。マネージャーと社員に対する評価の一致がみられるまで、私は毎回その会議に出席する。

私が質問する時のポイントは、決して声を荒げたり、社員をバカにしたりしない。礼儀正しく、でも、妥協なく質問を丁寧に行う。ピント外れの回答が出てきても、どこがおかしいかを説明して、正しい回答を後で出してくるようにお願いする。

こういうプロセスを取ることにより、会社が、パフォーマンスの悪い社員に対して、どのように向き合うのかを、社内に伝えるという意味合いもある。パフォーマンスの悪い社員への対応は会社にとって、とても重要なだけではなく、その社員の生活・人生にも直接関わる案件であるため、必要であれば、社長自ら向き合うのが正しい。

パフォーマンスの悪い社員が退職した後に、そのポジションに新たに人を入れる必要がなかったりすることも多い。元々の仕事量が多くなかったり、チーム内の業務の流れに障害になっていたというケースもある。

そういう場合は、そのヘッドカウントを、会社として新たに行おうとしているビジネスや業務に割り振ることができ、会社を強くすることに役立つ。

こういうことが、日常的に行われるマネジメント体制であれば、組織にも自然と気合が入り、ひいては、強い会社になることができる。


以下、参考文献



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