灰色に埋め尽くされた世界で。
カラフルにスタートしたはずの生活が、気づけば灰色に埋め尽くされている。知らぬ間に笑顔と疎遠になり、大好きだったジョギングも脚が脱力して膝からアスファルトに倒れそうだった。いっそ倒れて消えてしまいたかった。
「いつも元気いっぱいだね。」「笑顔がきらきらしているよ。」「ほんとに明るい人だね。」周りからそう言われ続けた私。明るさと元気が取り柄だと自分でも信じていた。不安と疲労に容赦無く生きる気力を吸い取られた3ヶ月間。長い冬眠の末、やっと太陽の光が差し込んできた。
私は仕事を辞めた。
安定した収入と手厚い福利厚生を手放した。退職金ももちろん出ないし、フリーター生活で食べていけるのかもわからない。退職後の手続きもわからないことだらけで不安は絶えない。転職先も決まらずの退職は馬鹿げているかもしれないが、馬鹿でもいい。軌道通りの人生から外れて新しいルートを切り開きたい。
傷ついた心を癒しつつ前を見上げて人生を歩もうと思う。好きだったことをもう一度好きになりたい。もしかしたら苦手だったことも好きになれるかもしれない。好きだと思っていたことが、実は無理をしていたと気づくかもしれない。
鬱は本当にきつい。鬱を通して多くを失ったかと思いきや、それは本当に大切なものだけを明るみに出す超自然的な「断捨離」だったのかもしれない。私はこの経験を通して自分の新しい一面を見ることができた。明るさと元気がなかったとしても、人を愛する気持ちは変わらずあったこと。自分自身をありのままで受け入れて愛してあげることの難しさ。何を成し遂げられなかったとしても、支えてくれる家族の温もり。面白い冗談が言えなくても一緒に時間を過ごしてくれる友人の尊さ。
灰色に埋め尽くされた世界。
灰色に埋め尽くされた世界は最初は恐ろしかった。見渡す限り灰色の雲。川の水面が空と一体となって私の周りを取り囲む。灰色の世界は私が握りしめていたものを剥ぎ取り、孤独と静寂で私を包んだ。心の中に押し込めていた感情が、底のない虚無へと涙と共に溢れ流れていった。
孤独だと思っていた灰色の世界は、ありのままの自分を曝け出すための特別な空間だった。音のない静寂は私が自分の体のSOSを聴くための森閑だった。見渡す限り続いていた薄暗い雲は、生身の肌を焦がす直射日光から守ってくれていた。灰色に埋め尽くされた世界は私が癒えるために備えられた特別な場所だった。
私はもう灰色に埋め尽くされた世界を恐れない。灰色に埋め尽くされた世界は私のサンクチュアリだから。私は灰色の世界を味方につけて生きることにした。焦らずに、頑張りすぎずに生きようと思う。
長い冬眠を終えて春が来る。差し込んできた太陽の光に連れられて、少しずつ世界に色が戻ってくることを信じて生きる。
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