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#314 「はたらく幸せ実感」が低い日本

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

昨日、「働きやすさ」は、リモートワークの普及等によって、多少改善されてきた部分はあるけれど、まだまだ過去の価値観や組織文化に引きずられて、「心から働きやすい」と言える状況ではない、という話をしました。
私たちは慣れすぎて「仕事とはそういうもんだ」という見えないバイアスに縛られているけれど、思考の壁を取っ払うことで、「言っても仕方ないからちょっと我慢していること」に気付き、それを表明して共感する仲間を作っていくことで、嫌だと感じる雰囲気を少しずつ変えていくことが大切だと考えています。

今日は、「働きやすさ」にも間接的に関連があると考えている「はたらくWell-being」に関する国際調査をもとに、事実ベースでの自分たちの状況を捉えてみます。

本調査は、パーソル総合研究所が2023年4月に公表したもので、アジア、オセアニア、北米、ヨーロッパの世界18ヵ国・地域の主要都市の人々のはたらくWell-beingの実態やその要因を調査したものです。

それなりに量はありますが面白いレポートで、自分の生活圏だけで物事を見ていると気付けない、自分たちが当たり前に感じていることが他国から見るとそうではない点に気付くきっかけにもなりました。

日本は「はたらく幸せ実感」が最も低い

まずは簡単に言葉の定義となりますが、「はたらくWell-being」は、WHO(世界保健機関)が定義している「Well-being = 肉体的、精神的、社会的にすべてが満たされた状態」を「はたらく」と「私生活」に分類し、「仕事を通じて、喜びや楽しみを感じることが多く、怒りや悲しみといった嫌な感情をあまり感じずにいる状態」と定義しています。

面白いと感じたのは、「はたらくことを通じて、主観的に幸せを感じている状態」である「はたらく幸せ実感」とその逆の「はたらく不幸せな実感」を別々の概念に分けている点です。こう捉えることで、「はたらくWell-beingを上げる・下げる」の二択から、「はたらく幸せ実感を上げる・下げる」、「はたらく不幸せ実感を上げる・下げる」の4択となり、必要なアプローチの解像度が上がります。

全体感としては下図の通り、はたらくことを通じて幸せと感じている就業者は、日本は49.1%で18ヶ国中最下位です。
一方で、はたらくことで不幸せを感じている就業者の割合も18.4%で16位となっており、「別に幸せではないけれど、特段不幸せというわけでもない」という結果になっています。

はたらく幸せ実感/不幸せ実感の実態

下図の通り、18ヶ国全てにおいて「はたらく幸せ実感が良好な就業者は、個人パフォーマンスやクリエイティビティ、ワーク・エンゲイジメントが高い」という結果が出てますから、「はたらく幸せ実感」を向上することで、個人パフォーマンスが向上するのは間違いなさそうです。

日本では、はたらく不幸せ実感が高いとワーク・エンゲイジメントが低下する傾向が他国より大きい

そして日本でより顕著なのは、「はたらく不幸せ感」が上がると、より個人パフォーマンスは下がるという点です。

「個人が幸せな状態の方がパフォーマンスも上がる」というのは、当たり前と言えば当たり前なのですが、当たり前だということをデータとしても根拠付けされていて良かったなと。
というのも、明らかに就業者の「個人の幸せを下げる」ような振る舞いを自分より若い人にする上司やクライアントっていますよね。
無理やり希望的に見れば、そういう行為で就業者を律しようとすることで相手のパフォーマンスを上げようとしているのかな?という気持ちもありましたが、やはりそれは間違いだ、ということを確信できたからです。

そのような「相手の幸せ実感を下げる」ような行動・振る舞いをする人は、その行為が相手のパフォーマンスを下げることにしかならないということに気付いていない鈍感、あるいは無知な人なのか、相手のパフォーマンスを下げることに気付いているけれど自分の感情をコントロールできない幼稚な人なのか、というように改めて捉え直すことができました。

さらに日本で顕著なのは、「はたらく不幸せ実感」が高いと継続就業意向がより低下する点です。
つまり、「職場で嫌な思いをした」などの経験をきっかけに、転職を決意する人が他国に比べて高いということですね。

はたらく不幸せ実感は転職意向を高める傾向あり

この点も、人手不足の中、各組織の人事部は必死に採用活動を頑張っているけれど、各現場で今目の前にいる人を大切にするためのアプローチ強化の方が大切では?という考えを補強するデータになります。

「はたらく幸せ実感」が低い人の属性

「はたらく幸せ実感」が低い人には、どのような特徴があるか、もう少し詳しく見ていきましょう。

まず、分かりやすいのが年齢別ですが、日本では「20〜40代」が「はたらく幸せ実感」が相対的に低いことが分かります。これは、韓国・台湾・香港と同様の傾向になりますが、他の地域ではこのような傾向は見られません。

日本の年齢層ごとの「はたらくWell-being指数」

この後の話にも繋がりますが、これは日本の意思決定プロセスというか、組織文化に大きく依存しているところかなと。50代を過ぎて、やっと組織内でも一定の裁量権が持てて、組織の意思決定に関わることができてくる。

これは日本の年功序列が色濃く出ているところで、40代以降になって管理職比率が上がってくるところとも関係しています。上述した韓国・台湾・香港の他、中国を入れた東アジアの国で同様の傾向となっていますが、逆にイギリスやスウェーデンでは20〜30代が40代以降よりも管理職比率が高いのです。では、イギリスやスウェーデンで40代過ぎたら幸せ実感が下がるかというとそうではなく、イギリスでは年齢に関係なく幸せ実感が8割程度の高水準、スウェーデンではむしろ管理職比率が下がる40代以降の方が幸せ実感が高くなっているという結果となっています。

年代別 管理職比率

日本の話に戻りますが、管理職の方が幸せ実感が高い、会社員や公務員などの被雇用者よりも専門家・自営業の方が幸せ実感が高いことから推察するに、やはり幸せ実感は裁量権と関係していると理解できます。

特に、被雇用者の幸せ実感が低い理由として日本が顕著なのは、「自分の仕事や働き方について、多くの選択肢の中から自分で選べる状態でない」と感じている人が圧倒的に多い。自営業や専門職の人の82%が「自分の仕事、働き方を自分で選べる」と感じているのに対し、正社員・公務員は46%、非正規雇用の人では43%です。他国を見ると、正社員・公務員であっても7〜8割の人が「自分で選べる」と回答しているところを見ると、世界全体で一概に被雇用者の選択肢が少ない、とは言えないようです。

雇用形態ごとの仕事や働き方に対する認識

2022年の統計局の「労働力調査」によれば、日本人の約9割が被雇用者ですから、ほとんどの人が「自分の仕事や働き方を自分で選べない」。さらには20〜30代の人、非管理職であれば、なおさら裁量権を感じられず「はたらく幸せ」を実感できないという実態が見えてきます。

「権威主義」の組織文化がもたらす悪影響

この裏には、日本の組織文化として「上層部の決定にはとりあえず従う」「物事は事前の根回しにより決定される」という「権威主義・責任回避」が高い傾向がある事実が影響していると考えられます。

日本は、韓国と並び「権威主義・責任回避」が強い組織文化

島国のムラ社会で「超オプトイン文化」が社会的に根付いている日本。
ある程度成熟していて、平時において物事を進めていく分には、根回しや序列を重んじる「オプトイン型のコミュニケーション」で上手くいっている面もある反面、多くの被雇用者、若い人たちの「はたらく幸せ実感」を下げる要因になっている事実には、もっと深刻に向き合ったほうがよいと感じるところです。

もっとも、自己発電型で自ら「はたらく幸せ実感」を高められる人は、オプトイン型コミュニケーションも上手く駆使しながら、やりたいことを実現していくわけですが、もう少し全体のバランスがオプトアウト型に移ってもよいかなと。

明日は、「権威主義・責任回避」が重視される日本の組織文化がもたらす、個人の成長という観点での影響について、同調査をもとにもう少し深掘りしてみたいと思います。

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林 裕也@30代民間企業の育児マネージャー
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