見出し画像

#435 考えるな!間違えろ!間違いは「してもいいもの」ではなく「欠かせないもの」

最近でこそ、ようやく会社組織の中で「間違ってもよい」というメッセージをチラホラ聞き始めました。しかし、「間違い」に対する捉え方は、まだまだ抜本的にアップデートしていかないと、社会や組織が真の意味で強くなっていくことはないと感じています。

Fail Fast、つまり「早く失敗し、失敗から学習して、改良を重ね、価値を生み出す」という言葉があります。しかし、「言うは易く行うは難し」で、真にこれを実行できている組織・チームは少ないのではないでしょうか。

「失敗の科学」を読み、失敗や間違いに対する自身のスタンスや、普段のマネージャーとしての振る舞い方について、今一度アップデートしていく必要性を感じています。

もちろん自分が何らかのミスをしてしまうこともあります。ただ、複数人のマネジメントの仕事をしていると、それ以上に自分のチームメンバーが何かのミスをした、という状況に対応することのほうが多いです。

普段からメンバーへのメッセージとして、「人は失敗からしか学ばないから、ドンドン失敗して」と言葉では意識的に伝えるようにしています。
もちろん、行動としても「失敗を責めない、失敗から学習する」を実行することを心がけてはいるものの、本書を読んで改めてそれが出来ているか?考えさせられることがありました。皆さんとも共有し、一緒に考えるきっかけになればいいなと思います。


ユニリーバのロジック無視のイノベーション

そもそも、「失敗は成功のもと」と呼ばれますが、なぜ失敗が必要なのでしょうか?
本書では、多くの事例が紹介されていますが、私が特に印象的だったのが、LUXやDoveなどのブランド製品を持つユニリーバのイノベーションです。

今から約50年前、ユニリーバは液状の洗剤原料を超高圧で噴霧し、洗濯用の粉末洗剤を作っていました。当時、噴霧用ノズルが何度も目詰まりし、製造工程が非効率だっただけでなく、粒子が一定に揃わず、品質面でも問題を抱えていました。

そこで、液体力学の専門家・一流の数学者を集めて、論理と合理性からアプローチして何度もミーティングを重ねましたが、完成した新たなデザインのものでも目詰まりは改善されませんでした。

そこで同社は、破れかぶれで、流体力学についてほとんど何も知らない自社の生物学者たちに助けを求めました。彼らは、目詰まりするノズルを10個集めて変更を加え、結果にどのような違いが出るかテストします。すると、うち1つがわずかではあるものの改良しました。

それを更に少しずつ変更し続け、結果として45世代のモデルと449回の失敗を経ました。結果、それまでよりはるかに効率のよいノズルを誕生させましたが、最終形は、どんな数学者も予測し得ない形になったそうです。

分かったつもりになっていることを試せない問題

ご紹介したユニリーバの事例は、「正しいかどうか試してみるなんて当たり前では?」「正解に辿り着くまでに絞り込みで試していくなんて単純な話」と思われる人も多いかもしれません。

しかし、現実には「いやーそんなことやってたらキリがないでしょ」とか、「普通に考えて、そんなことはあり得ないから、わざわざ試す必要はないだろう」みたいな話になって、やる前に「考えて」試さなくなることって多くありませんか?

「正しいかどうか試してみる」を実行に移すには、大きな障壁があるのです。

だからこそ、その壁をスルッと乗り越えてくる個人や組織は強いです。
先日、とある後輩と話していてさすがだなと感じたエピソードがあります。

その後輩の会社で、彼は金融機関向けの新規サービスの立ち上げの中心にいました。そのサービスは、現在実際に世にリリースされています。
その後輩は大企業に勤めていて、私も似たような立場なのでよく分かるのですが「大企業は新規事業が起こしにくい」なんて言われ、大企業向けの新規事業開発のノウハウや専門のコンサルビジネスが一定数存在するような世界です。

しかし、彼はそんなことはほぼ気にしていない様子で、新サービスのリリースを実現し、今も多くの人に利用されているサービスになっています。彼は何をしたのでしょうか。

彼は、クライアントと新規事業の提案をするときによく取られるような、クライアントの中期経営計画(行政組織で言えば、総合計画)の分析や、クライアントとの複数回のミーティングなどはもちろんやっていましたが、それだけではありませんでした。

クライアントの金融機関の融資先を自分の足でまわり、例えばとあるスーパーの店の雰囲気について調査したり、融資先の有価証券報告書などを一つ一つ分析していました。つまり、クライアントの金融機関職員よりも、その金融機関のクライアントのことを知ろうとしました。そして、その金融機関でさえも知らない一次情報を取得し、それをクライアントとの提案内容に入れたりしていたのですね。

もちろん、直接的な提案に繋がらない訪問も多くはあったはずで、それを「行かなくても分かること」とインテリ的に片付けてしまうこともできます。しかし、多くの「行かなくても分かること」があれば、少ないかもしれないけれど「行かないと分からないこと」もあったはずです。彼は、それを提案の中に盛り込みました。

特に大組織にいると、インテリ的に頭がいい人は沢山います。だからこそ、やる前に「そんなことをやるのは費用対効果が悪い」と「考えて」切り捨ててしまいます。ただし、その結果残ったものは、論理と合理性だけで残ったアイデアだけで、ワクワクする話が基本的にないんですよね。
でも、普通に考えて、自分たちよりも融資先に「足を運んで」回っている人がいたら、それだけで「この人と一緒に何かしたい」と感じませんか?

「大企業での新規事業創発支援コンサル」も、上手くクライアント側で使いこなせればいいと思います。しかしそうでない場合、クライアント抜きであれこれ机上でシミュレーションしているくらいなら、実際に仮説に対する検証をドンドン試して「間違い」の数を増やしている方がよほど成功に近づくアプローチですね。

自分の姿勢へのフィードバック事項

私自身、特に注意しないといけないなと思ったのがここで、何となく「それは上手くいかないだろうから、こうしてみたら?」とか「リソース上限を無意識に意識して、このやり方では終わらないから、こういうやり方にしてみたら?」と言ってしまっているところがあると思うんです。

でも、この「それらしい働きかけ」によって、無意識のうちに「試してみる」機会を奪い去っていることにならないか。「人は失敗からしか学べないから、ドンドン失敗せい」と言いながら、「(自分が思う)失敗しない方向」に無意識に誘導してしまっていないか

もちろん、自分がハマってきた落とし穴がその先にあると分かっているのに、わざわざ同じ落とし穴を踏ませる必要はありません。しかし、気をつけないといけないのは、「クライアントよりもクライアントの問題のことを把握するには?」の問いに対して、「クライアントのクライアントのところに、クライアントよりも足を運べばいい」というような一つの仮説に対して、「それは現実的でないよね」と変なバイアスを働かせてしまって、メンバーからその選択肢を無意識に捨てさせている可能性です。

そこでは、頭でっかちに「考えようとする」ことで「間違う」機会を失わせ、そこからの学習機会を失ってしまい成長が阻害されている面があることを常に忘れてはならないな、と。

失敗に対して「ドンマイ(Don't mind)」くらいではまだまだ弱いですね。ましてや失敗を責め立てる組織に真の成長はあり得ません。

いいなと思ったら応援しよう!

林 裕也@IT企業管理職 ×「グローバル・情報・探究」
もし面白いと感じていただけましたら、ぜひサポートをお願いします!いただいたサポートで僕も違う記事をサポートして勉強して、より面白いコンテンツを作ってまいります!