#403 メンタルタフネスの高いチームを作るには?現役マネージャーの日々の挑戦
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
最近、何度か取り上げているメンタルタフネスに関するテーマですが、今日は、対象を「自分」ではなく「他人」にフォーカスします。
私は、民間企業で自分のチームを持たせてもらって、チームメンバーとともに参画しているプロジェクトを成功に導く成果責任があります。
毎回、開発プロジェクトごとに「リスク一覧」が作成されてリスクコントロールがなされますが、最も最重視すべきと考える「チームの存続リスク」がなかなか上がってくることはありません。
しかし、半導体の値上がりよりも、グローバルサプライチェーンの断絶よりも、「チームが存続できない」リスクは、最も重要な管理項目です。
AIや自動化が進んでいるとはいえ、仕事の主体は人にありますから、従業員がいなくなってしまえば事業は終わってしまいます。
何より大事な「人」が仕事を続けられなくなってしまう要因の一つが、メンタルです。
リスク管理の手法には、主に回避・軽減・転嫁・受容の4パターンあると言われますが、チーム力としてメンタルタフネスが脆弱だと、常に高いリスクに晒された状態のままです。
最近、重点的に取り上げられるようになりつつあるカスハラ対策は、リスク「回避」に分類される取り組みですが、いくら回避してもよけられず、大ダメージをくらってしまうこともありえます。
そのため、マネジメント視点では、チームにおけるメンタルタフネス強化という、リスク「軽減」アプローチが重要です。
これは、ダメージを受ける場面に遭遇しても、しなやかに受け流すメンタルタフネスを築き上げることです。
冒頭紹介した記事では、「自分」が意識していればよかったものですが、「他人」も巻き込むとなった瞬間に一気に難易度は上がります。
したがって、私自身も日々のマネジメント業務の中で、On-goingで向き合っている取り組みで、唯一解はない話だとは思いますが、どなたかの参考になればということでご紹介したいと思います。
同じ事実に対する受け取り方は人それぞれ
日々、メンバーと話していてとにかく感じるのは、同じ事実を目の前にしても、その事実から受け取る印象や感じ方は、人によって大きく異なるということです。
それは、個人としてのもともとの性格もあるとは思いますが、それ以上に経験値が大きなファクターになっているように感じます。
これは、経験が長いほうが立派だとか、経験が長いほうがメンタルが強いということを言いたいわけではなく、目の前に発生した問題に対する解決パターンの選択肢をいくつ持っているかに、事実の受け取り方が強依存しているということです。
例えば、お客さんに何かのドラフト段階の商品についてプレゼンして、想定外のコメントが多く寄せられたシーンがあったとします。
その時に、「そんなコメントは想定していなかった!どうしよう・・・」と思考停止してしまうのか、「まぁ早めにお客さんにぶつけておいて、今の段階で意向を確認できておいてよかった」と捉えられるかは、そのコメント一つ一つに対して、どのように捌いていけばよいか、どの程度イメージができるかです。
別の表現をすれば、目の前に事実として発生している問題に対して、着地地点とそこに向かうプロセスがイメージできるかどうかということ。
車の運転に例えるならば、霧がすごくて目の前3mくらいしか見えていない状態では、誰しも恐怖心を感じますよね。これは、「急に何が出てくるか分からない」「どこに向かっていけばよいか分からない」ことによる恐怖心です。
一方で、晴れ渡った日の運転で、遠くまで見通せる状態であれば、そのような恐怖心は感じないはずです。
先に障害物が見えたとしても、早めに車線変更できるし、急に何かが飛び出してくるかも?という恐怖心がないからです。
同じ事実を目の前にしても、人の経験値や潜ってきた修羅場の回数によって、見える景色は全く異なっているということです。
まずは声かけが大事
マネジメントとしては、一人一人が見えている視野・視界をできるだけ正しく掴むのが大切です。
そして、霧の中を走っている車のドライバーが助手席の人に声をかける余裕がないように、なかなか自分から冷静に現在地を把握することは難しいもの。
だから私の場合、とにかく「元気?」とか「順調?」と声をかける頻度を上げて、メンバーが一旦現在地を自己認識するためのきっかけ作りを心掛けています。
霧がかかっていない状況であれば、「元気じゃないです」みたいに冗談で返ってきたり、ただの雑談で終わりますが、霧が多少かかっているメンバーであれば、「霧のかかり具合」を共有してくれます。
「今、これで行き詰まってるんです」とか「これがうまくいかなくてしんどいです」みたいな感じです。
私は全く望んでいないものの、Outlook上では予定が空いていないみたいな日も少なくないので、メンバーからは尚更声がかけにくいはずです。だから、自分から声をかけます。
定期的に1on1で30分程度話す時間も作っていますが、とにかく毎日短くても話す頻度を増やすことで、「なるほど、自分は全く何も感じていないようなことだったけど、この人から見たらストレスになっているんだな」を把握しやすくなります。
チームのメンタルタフネスを強くするアプローチ
頻繁に声をかける話は、ストレスボルテージが上がりきって故障してしまう前の軽減策ですが、同時にストレスがかかっても潰れないしなやかなマインドセットを浸透させることも必要です。
このアプローチで最も有効なのは、「一緒にやってやり方を教える」だと思っています。
繰り返しますが、強靭なメンタルタフネスは、問題に対する具体的な対処のイメージができるか。
問題が顕在化した時のインパクトをどれだけイメージできるか、に依存しています。
例えば、上述した例の延長で、メンバーが作ったソフトウェア製品のプロトタイプに対して、お客さんや上司から想定よりも多くコメントが入るケースを想定します。
この時、コメントがたくさん入ることを想定して、前もって余裕を持ったスケジュールを立てておくことも一つの有効な対策にはなりますが、現実的にはタスクに追われて余裕を持てないことも多いですし、不安が本質的に軽減されることはありません。
それよりも有効なアプローチは、プロトタイプを自分で修正できるかどうかということ。
最近、これに似たような事例があったのですが、プロトタイプのメンテナンスを他社にお願いしていた経験の浅いメンバーは、後になってもコメントが収束せず、最終的な納期に間に合わないのではないか?と不安が拭えていませんでした。
しかし、プロトタイプのソースコード改修のやり方について、まずは一緒にやりながら教えて、その後メンバーが自分でプログラムを動かしてみたら、表情がかなり変わってきました。
これは、コメントが来たとしても、こういうコメントであれば自分で修正できそう、というイメージがついたことによるものです。
生成AIへのプロンプトの作り方、エディタでの効率的なソースコード修正のやり方など、一緒に画面を見て教えるのです。
「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」のティーチング・ファーストの考え方は、特に経験が浅いメンバーのメンタルトレーニングの面でも有効です。
メンバーが直面する問題解決にあたり、「選択肢が複数あることを示す、自分でもやれそうと感じてもらう、最後は自分が責任を取ると示す」ことが、マネージャーからメンバーに対してできる強靭なメンタルタフネス作りのアプローチになります。
これが、日々のマネジメント実践を通じて学んでいるチームのメンタルタフネストレーニングです。