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#348 伝統工芸と最先端のクロスが生む価値。富山・能作さん訪問記

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

先日、富山を訪問していた際に少し時間があったので、現地の知り合いの方にご案内いただき、「能作」さんの工場見学をさせてもらいました。

以前からよく名前は聞いていたので気になっていた場所ではあるのですが、今回実際に訪問して、「伝統工芸」を上手くモダナイズできているケースというのは、このようなアプローチでやるのか!ということをリアルに実感。大変有意義な時間となりました。

場所は、「たかおかオフィスパーク」という場所にあり、車でないと行きにくい場所ではあるものの、バスやタクシーでも最寄駅から15〜20分程度で来れる場所です。ぜひ私のように県外在住の方で、北陸地方への旅を計画されている方は、あえて足を運ぶプランに入れてもらっても良いかと思います。

今日は、そんな「能作」さんの魅力について、皆さんにもご紹介します。

能作の歴史。苦難は常に「型破りな発想」が突破口

能作がある高岡市は、人口約17万人を擁する富山県内第2の都市ですが、江戸時代初期の1609年、加賀藩2代藩主・前田利長が高岡城を築き、その城下町として開いたのが始まりです。利長は産業振興を目的として7人の鋳物師を招き、金屋町に鋳物工場を設け、当初は日用品や農具を作っていましたが、時代のニーズに合わせて多様なものを作るようになり、高岡は「鋳物のまち」として知られるように。

400年以上が経った現在も、高岡は銅器作りで国内9割のシェアを占める鋳物づくりのまちで、仏具や茶道具、銅像など、多様なものを生産しています。能作さんが鋳物製造を始めたのは、1916年。高度経済成長真っ最中の1965年に豊かさを増す日本人の生活に着目し、モダンなデザインの花器を開発したところそれがヒットし業務拡大のきっかけとなりましたが、その後の景気低迷、生産拠点の海外移転による低価格化により、苦境に立たされるようになりました。

1984年、現会長の能作克治さんが入社され、18年間職人として技を磨いていましたが、自社製品を開発したいという気持ちになったとのこと。2001年に原宿で開催された展示会で、真鍮(しんちゅう:銅と亜鉛を混ぜ合わせた合金)製のベルが注目を集め、セレクトショップでの取り扱いが始まりました。当時のショップ販売員のアドバイスから風鈴の形にしたところ、毎月1,000個以上が売れる大ヒット商品になったようです。

真鍮製の風鈴は、こんな感じで展示されてました。独特の味がありますね

さらに、「誰もやったことがないことをしたい」ということで錫100%の加工に挑戦。どうしても曲がってしまうというのが加工の難題でしたが、「どうせ曲がるなら、曲がる商品を作ろう」という逆転の発想で、能作さんを代表する「KAGOシリーズ」の商品が生まれました。私も初めて曲がる食器に触れましたが、生まれて初めての感覚、かつ色々な形に変えて利用できて、とても面白い商品でした。

手でぐにゃぐにゃ曲がります。果物など、入れるものに応じて形を変形できます。

さらには、伝統工芸品の商品開発だけでなく、2017年より照明機器、建築金物、医療機器など、分野を超えたものづくりに挑戦中。工場見学や、地元食材を盛り込んだメニューが楽しめるカフェ、観光情報コーナーを設けた新社屋を構え、世界からも注目される場所になっています。

現会長の克治さんが入社した時には7名だった職人も、現在は数十名に。中には、東京から職人になるために移住された若い女性の職人さんもいらっしゃいました。
工場見学対応をしていただいた女性の方も、一度県外の大学に進学後、富山に戻ってきて、「ここなら色々と好きなようにチャレンジできて楽しい」と話していたのが印象的で、こういう面白いところには人が集まる、新しい人を惹きつける会社がやはり強い、ということを実感しました。

オープン型のプル営業。工場見学の工夫

以前にご紹介した小豆島のヤマロク醤油さんもそうでしたが、地元の面白い会社さんは、自分たちの取り組みを外に魅せるのが非常にお上手です。

モダンな雰囲気の場所に商品が並べてあるだけでなく、職人さんたちの商品開発の過程を紹介する仕組みが仕掛けられており、子どもの頃に工場見学に参加した人が大人になって職人として就職する人までいると話していました。

ベルなどに使われる錫
錫は230度程度で溶けるとのこと

錫は比較的低温で溶けるため、家庭用のコンロと鍋で溶かしています。現在は、錫は、インドネシアからの輸入がメインらしいです。
溶けた錫を鋳型に流し込み、5分程度で固まるとのこと。次の写真は鋳型になりますが、インスタ映えを狙って様々な色が使われているわけではなく、もともと職人さんによって目印として色を使い分けていたとのことで、黄色や青色など色鮮やかになっています。現在は、こんなに職人さんはいないようですが、カラフルな鋳型をこうやって並べて展示するところにも、センスが見え隠れしています。

固まった直後は、まだ火傷の後が残っていたり、たい焼きと同じで上下で挟んで型をとるため、淵のところにたい焼きの皮のようなものが残るので、それらを削り上げていく工程に入ります。

固まった直後。まだ火傷のあとが残っている
職人さんが削り上げていきます
かなり神経を使う仕事ですね
熟練の技です

こうして加工したり削り上げていきながら、徐々に展示室に並べてあるような美しい商品になっていく過程をガイド付きで見学することができます。
自分たちの商品を作る過程をこうやってオープンにして、商品そのものへの興味・関心を高めてもらうのはもちろんのこと、体験としての観光、さらには採用にも繋がる機会を創出されています。

会場では、鋳物製作体験もできますしオシャレなカフェもあります。ただ商品を見て「すごいね」で終わらない仕掛け盛りだくさんです。

これも、当然能作さんにとっては「一手間」かかる工夫なわけですが、やはり人を魅力するサービスは、皆しっかり王道を抑えられていることを理解しました。

他分野連携でますます広がる可能性

能作さんのサイトがまた面白く、「観光×宿泊プラン」というのも用意されています。伝統工芸と昨今の観光需要の高まりを上手く取り込む動きです。

上記リンクからアクセスできる「Bed and Craft」さんと能作さんのタイアップでは、古民家をリノベーションした一棟まるごと貸切の限定宿を提供しており、地場の食材を利用した懐石料理を能作さんの錫の漆器で味わえます。

記念日など、特別な気分を味わいたい人にはピッタリの場所ですね。

こんな贅沢な漆器で味わう懐石料理

東京ステーションホテルさんとのコラボにも取り組まれていて、錫婚式プランなるサービスも提供されています。こちらは東京丸の内で楽しめるので、都内に住んでる方もアクセスしやすいですね。

能作さんのサイトでは、ものづくり県富山の企業が作った製品やクラフト作品が展示されている「高岡市デザイン・工芸センター」や、北陸で一つのウイスキー蒸留所の「三郎丸蒸留所」さんの紹介もされていて、他分野連携・集積型での観光地を目指していることも窺えます。

昨年2023年からは、能作克治さんのお嬢様の千春さんが5代目社長に就任され、さらに勢いを増しそうな予感がします。
もちろん、困難も多いとは思いますが、挑戦し続ける同世代の方がいるのは心強く、能作千春さんが出版されていた本も読んでみようと思います!


柔らかいから、持ち手のところに自分で少し窪みをつけられるのもいいですね

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林 裕也@30代民間企業の育児マネージャー
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