#370 能力格差がますます広がるという仮説と危機感
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
マネージャーの立場になり、人材育成が仕事のど真ん中に来ると、割と真剣に「どういう人が能力やスキルを高めていくのか」ということを考えるようになりました。
また、最近の世の中の流れと仕事の中で求められる能力を照らし合わせて考えていくと、能力格差はますます広がっていく、つまり、仕事ができる人はドンドンできるようになっていくし、できない人はいつまでもできないまま、というのが、これまで以上に顕著に表れてくるのではないかと感じています。
今日は、なぜ仕事の能力格差は広がっていくと考えているのか、私の考えを述べた上で、何をすべきかを考えていきます。
仕事の能力格差が広がると考える3つの理由
まず、私が周囲を見ていて、仕事の能力格差が広がると感じる理由について3つ指摘します。
1. マネージャーがパワハラを恐れて放置する
これはよく指摘される点かと思いますが、私が入社した2010年代前半は、上司がパワハラなんて恐れている感じはあまりなく、今聞くと信じられないような職場も普通にありました。
(私の職場では、先輩に恵まれたこともあり、パワハラと感じることを自分が受けたことはありませんでしたが、仲間の職場では職場で普通に怒声が飛んでいたり、色々ひどいエピソードを聞きました)
少し調べてみると、パワハラ防止措置が施行されたのは2020年6月で大企業に適用、中小企業を含む全企業に適用されるようになったのは2022年4月ということで、意外と最近だということが分かりました。
2020年時点のアンケートで、過去3年以内にパワハラを受けたことがあると回答した人の割合が31.4%、都道府県労働局における2020年6月の労働施策総合推進法施行後のパワハラの相談件数が1万8千件に上ったことを受け、防止対策の強化が図られたものです。
もちろん、身体的な攻撃や脅迫、侮辱、暴言、無視といった行為は許されるものではありません。しかし、こういった過度なケースはともかく、マネージャー側は「普通に叱ること、指導すること」すら敬遠してしまい、指導そのものの機会が減少し、「心理的安全性」という言葉が誤って捉えられてしまい「ぬるい職場」が増えている面は否定できません。
まず、マネージャーはメンバーを恐れずしっかり向き合うこと。言うべき時にはしっかり言わないと、そのメンバーは成長機会を失うため、期待事項と違った行動をした時にはそれをフィードバックするのがマネジメントの役割ではあるのですが、結局それも各現場のマネージャーに依存してしまいます。
それまでは、言うべきことが本人に伝わり、本人にとっては耳の痛い言葉でも中長期では身体に染み込んでいる教えや動作というのってあると思うのです。
また、リモートワーク自体は多様な人が活躍できるためにも必要不可欠な仕組みだと考えていますが、リモートワークの弊害は、先輩のちょっとした振る舞いや所作などから学ぶ機会を失ってしまうことです。本当は、そこを補填する育成やマネジメントがセットで必要になりますが、単純にそのような機会がなくなってしまうだけでは片手落ちになってしまうと考えます。
このように、パワハラ懸念により「言うべきことまで言わなくなった」マネージャー、身近な人の振る舞いから学ぶ機会を失うことで、結局は本人の学ぶ姿勢に依存することになります。自らフィードバックを求めにいける人、リモートであれ、あるいは対面で先輩と積極的に会話しようとし、先輩の所作などから自ら学びにいく人は、ドンドン吸収して伸びる一方で、それができない人は、それまでであれば否応なしに経験していた学習機会も一緒に失っていると考えます。
2. 労働時間削減の傾向
次に、「働き方改革」の指標の一つである労働時間削減です。
これも、無茶な働き方が良いとは全く思いませんし、多様な人が能力を発揮するには、長時間働ける人だけが乗れるシステムはそもそも崩壊していますから、労働時間を短くしていこうとする方針そのものには、私も大賛成です。
一方で、見落としてはならないのは、能力開発・成長の観点で言えば、ある程度のスキルや技能を身につけるには、同時に時間もかかると言う事実です。
何かの分野でプロと呼ばれるようになるには、1万時間が必要と言われるように、何かを習得するには、相応の時間がかかるのが当然だと思います。30代後半になった今の私が、ある分野の専門性や仕事のスキルを身につけられているのは、20代にかなり多くの時間を仕事に割けたから、と言うのは事実としてあると思うんです。
そしてそれは私だけでなく、今現在において、あらゆる分野でプロと呼ばれる人や何かの成果を出してきた人であれば、大抵昔はかなりの時間をかけて打ち込んだ、という時期を経て、今があるはずなのです。
だから結局はここも本人次第ということになり、仕事の時間としては短くなった分、空いた時間で自分のスキルアップに繋がることに自分の時間を投資できるかにかかってくると思います。
以下の記事でも述べましたが、結局は自己管理能力・自己責任ですね、ということです。会社での労働時間が短くなって作った時間で何をするか。ここをうまく自己管理できる人は当然伸びるし、できない人は伸びないままです。
3. 会社の外の世界を知ろうとするか否か
最後の観点は、モノ余り・人的労働制約の現在において、職場の中の世界だけでイノベーションを起こそう、これまでにない価値を作り出そう!ということがそもそも無理だと考えていることです。
これは2つ目の論点の延長になりますが、結局は労働時間が短くなった分、外の世界に飛び込んでいけるか。また、業務時間中であっても、自ら外の環境に飛び込み、社外の人たちと自分たちの仕事を繋げる動きが出来るかどうかで、その人が持つ選択肢の幅が大きく変わると思います。そして、外の世界を知ることでの学びは複利で大きくなりますから、外に行って、そこでの学びを中の仕事に活かすことができる人はドンドンできるようになっていくし、それができない人はずっと組織の中で「どうやってイノベーションを起こそうか・・」と会議室でウンウン悩んでいることになります。
これも究極は自分次第。自ら考え行動する人は、ドンドン動いて複利で学んでいくのに対し、そうでない人はその場に停滞してしまいます。
マネジメントはどう向き合うか
これまでの話を統合すると、究極的にはこれまで以上に自己管理力が求められるということです。「結局はその人次第」になっちゃうわけですが、チームメンバーの能力を上げてチームパフォーマンスを最大化することが仕事のマネージャーとしては、やはり自分のチームメンバーから逃げない、ということに尽きるのかなと。
言うべきことは言わないといけないし、個人のキャリアアップを目指すために必要な取り組みを一緒に考えていかないといけない。
そもそも響く人・響かない人がいるし、かなりの時間がかかるもの、と言う前提に立って、一朝一夕には効果が出てこないアプローチをひたすら粘り強くやっていくしかないんだろうと思います。
でも、時間はかかってもそれで能力をグンと上げてきた人は何人も見てきており、そこに希望があります。
より自己管理力が求められる時代になったからこそ、マネジメント側としてもアプローチを変えるところ・変えないところを見定めてやっていきたいと思います。