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#312 「プル型営業」に唸らされるヤマロク醤油

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

今日は、8月に子連れ旅行で行った小豆島で出会った「ヤマロク醤油」さんの巧みなセルフブランディングをテーマに書いてみたいと思います。

小豆島で訪問した「ヤマロク醤油」さん

当時のリアルタイム旅行記でも少しだけご紹介していましたが、今日はその詳細編です。ぜひ、こちらも合わせてご覧ください!

今回、何故「ヤマロク醤油」さんのセルフブランディングについて取り上げたかというと、その「営業力」の強さをよく感じたからです。
しかも「これ買ってください!」というような「プッシュ型営業」ではなく、思わず応援したい、醤油とその周辺にある体験、醤油作りを通じた歴史を知りたい!という気持ちにさせてくれる「プル型営業」が超上手。

「プル型営業」は、全ての人の協力な武器になります。

単に企業活動としての営業だけでなく、一人の人間としての社会資本形成(この人にぜひこの仕事をお願いしたい、と思わせる周囲からの信頼)としての営業においても、自ら個別に営業していくよりも、より効果的な営業になります。

会社員や公務員であっても、組織内から「この仕事は、ぜひこの人にお願いしたい」と引く手数多な人であれば、当然面白い仕事が集まってくるでしょうし、社外から「このプロジェクトは、この人とやりたいんだ」と思ってもらえれば、組織内の評価も上がるでしょう。

自営業や個人事業主の方であれば、自分からプッシュ型で個別営業かけて行かなくても相手からやってきてくれる状況を作り出せば、売上を上げながら、広告などの販管費を削減できますから、利益幅を大きくできます。

だから、「ヤマロク醤油」さんの「プル型営業」の巧みさを勉強し、自分の人生や生活に少しだけでも取り入れることで、事業や生き方そのものへの参考にもなると考えました。

今日は、3つの観点から「プル型営業」の巧みさについて、まとめてみます。


一体感のあるメディア活用

まず、知れば知るほど感じるのが、ネットをうまく活用した一体感のあるブランドイメージです。

こちらのホームページを見れば分かるのですが、これだけでも一つの作品ではないか、と思わせてくれるサイト設計になっています。
このサイトがないと、全く異なる生活圏にいる人からは、「小豆島にある一軒の醤油屋さん」くらいにしか認知されないと思うのですが、このサイトのおかげでヤマロク醤油さんのことが実に立体的に見えてきます。

普通、「商品紹介」が全面的に出てきそうなところ、サイトリンクの順番は、「ヤマロク醤油について」→「見学・アクセス」→「商品紹介」→「お知らせ」→「お問い合わせ」となっています。

まずは自分たちのことを知ってもらうための情報が先に出てきて、そこには「ヤマロクの歴史」「五代目物語」「やまろく茶屋」と興味深い記事が並んでいます。後述しますが、そもそもサイトのトップページには「木桶職人復活プロジェクト」とあります。思わず「ん?」と興味を惹かれます。
醤油のサイトを見ているのではなく、一つの産業に関する歴史や、一人の人間の人生をブログで垣間見ているような、そんな面白さがあります。

普通、企業ホームページにある「沿革」では、何年に創業して、いつからどこに2号店を開設して、いつから何の事業を開始して・・・みたいな情報が並びそうなところ、ヤマロク醤油さんの場合は、五代目の山本康夫さんの家に残っている写真を並べたようになっているのも面白い。

Youtubeチャンネルも開設されていて、醤油そのものではなく、そうめんやステーキへの醤油の使い方や、醤油作りの風景、木桶職人プロジェクトについての動画
が見れます。この動画も、プロの作品というか、ホームページのテイストとあった非常に上質なものを感じます。

これらの動画が英語字幕なのもいいですね。ホームページでは、「日本語・英語」のほかに「スペイン語・ドイツ語・フランス語」がサポートされているのも、これまたセンスがある。誰をターゲットに見ているか、がよく伝わってきますし、一見「小豆島」という日本国内にいてもアクセスしにくそうな場所が「TOKYO」や「KYOTO」などの定番ではない隠れた名所的なイメージに変えてくれています。

私が行った時もそうでしたが、予約なしでももろみ蔵見学を受け付けていて、スタッフが非常に手際よく対応してくれます。海外から来られた方にも、ファンを作るための仕掛けが上手く設計されています。

思わず興味を持ってしまう「五代目 山本康夫さん」

「五代目物語」を見ると分かるのですが、山本さんがどのような経緯で実家の醤油屋を継ぐことになったのかということが紹介されており、これを見るだけでも思わずファンになります。

小豆島の醤油屋で生まれ、大学進学で一度島を出るものの、やはり小豆島に戻りたくなったことから地元の企業に就職。しかし、営業職に配属され勤務場所は大阪。張り切って食のキャリアを歩み出したものの、単価を下げる、中身を変えずにパッケージだけよくするといったコストバリュー追求に嫌気がさし、手間暇かけて作ったものが適正価格で売れる、作り手と買い手が双方に顔が見える仕組みを追求したいと、家業を継ぐことを決意されたそうです。

それが島を出てから10年くらいしたところ、というのが、何とも親近感が湧くところです。30歳過ぎてから、本格的に醤油作りのキャリアを歩み、夏はサウナ状態という蔵での仕事も、蔵のおかげで全国各地の色んな人との出会いがあり、毎日楽しくて仕方ないと語る五代目。生き方そのものに憧れます。自分の人生に覚悟とリスクを背負った人だけが見える世界。当然厳しさもあると思いますが、そこにしかない何かがきっとあるはずです。「毎日楽しくて仕方ない」なんて堂々と言える人って意外と少ないのでは?

現代はほとんどなくなった「木桶仕込みの醤油」がヤマロク醤油さんの売りなのですが、蔵は新調すると500万円、その他補修や修繕費などもかかるので、家族の生計を立てるためのお金だけでなく、蔵を維持するためのお金も必要なのだそう。
2009年当時、杉樽職人は国内に4名ほどということもあり、危機感を覚えた五代目自ら取り掛かったのが「木桶職人復活プロジェクト」です。

見学させてもらった蔵の様子

木桶職人復活プロジェクト

杉樽の寿命は150年と言われており、ヤマロク醤油さんの醤油作りには欠かせない設備です。可能な限りの借金をして2009年〜12年にかけて合計12本の新桶発注しただけでもかなりの決断だと思いますが、杉樽職人がいなくなってしまうことに危機感を覚えた五代目は、自ら「木桶職人」として桶屋さんに弟子入りします。

「技術を共有して職人を増やす」ための取り組みを積極的にされています

このあたりの修行の様子、木桶の作り方も写真やYoutubeで公開されており、これまた惹きつけられるところです。醤油屋が木桶職人に弟子入り、という発想も素晴らしいですし、誰もやらないなら自分が、という生き様、痺れます。
この辺のサイトや動画もおそらくプロの方が作っていると思うのですが、本当に上手く仕上がっています。自らチャレンジを繰り返し、そのチャレンジが第三者からも見える形で発信する。自ら飛び込んでいく営業ではなく、思わずそこに注意を惹かれてしまう発信や行動がさすがだと思わされる所以です。

木桶を単なる「醤油を作る装置」としてだけでなく、「全国からお客さんを集めるランドマーク」として扱うところ、木桶職人として弟子入りするチャレンジも一人で裏でやるわけでなく、堂々と公開しながら進めるところ、さすがです。ヤマロク醤油さんの「プル型営業」の巧みさが実によく表れていると思うのです。

ヤマロク醤油さんに頼まれてもいないのに、私にこのような記事を書かせてしまうところ、私自身もヤマロク醤油さんの「プル型営業」に完全にプルされてしまっていますね。笑

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林 裕也@30代民間企業の育児マネージャー
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