【研究記録】 マスコミ弱体化→記者削減で何が起きる?
「マスゴミ批判」に象徴されるように、マスコミがある種の特権階級と括られ批判されることも多い昨今。もちろん批判的な意見を述べることは個人の自由ですが、一方で「権力監視」や「調査報道」のパワーが弱まることで生じるリスクに目を向ける必要性はないのでしょうか。「マスコミ弱体化」を看過することへの警鐘かもしれない、昨年末に実施した調査レポートです。
記者クラブに「記者が常駐しているかどうか」が、自治体の課題解決に一定の影響を及ぼす可能性が示唆された
私はこれまでメディア業界に軸足を置きながら、その現場がPV至上主義に象徴される「アテンション・エコノミー」に巻き込まれていく状況を目の当たりにし、どうすれば「情報の質」を高められるか調査・研究に取り組んでいる人間です。
今回は、株式会社Shireruと共同で調査を実施。全都道府県および全市区町村1788自治体へのアンケート調査結果と、民間の有識者でつくる「人口戦略会議」(2024年4月)における「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」のクロス集計をおこないました。
その結果、「記者が常駐している自治体」は「常駐していない自治体」よりも、“改善”が見られる割合が高いことが明らかになりました。
記者の存在が、自治体の課題にポジティブに作用する可能性がある
詳しい調査結果はこちらのブログ記事をご覧いただければと思いますが、要するにプロの記者がしっかりと自治体・行政機関に根を張って取材し、読者や視聴者に向けて発信し続けることで、私たちの暮らしがより良くなる可能性が示唆されています。
逆に、このままマスコミがどんどん弱体化していくことで記者の数が削減されれば、暮らしに悪影響が及ぶ可能性が高まるというわけです。
今回の調査では10年前の「消滅可能性都市」に関する調査をクロス集計しており、あくまで人口減少の問題に絞ったデータではあります。しかし感覚値として、多くの記者が記者クラブに常駐し、絶えず当局への取材をおこなっていれば、自ずと不正が正されたり、より良い取り組みへの職員のモチベーションが高まるのは自然な成り行きのようにも思えます。
マスコミの経営悪化が、他人事のように嘲笑される風潮に一石を投じている
広告収入が大きく減少し、ビジネスモデルの転換を余儀なくされているメディア業界。さらに追い討ちをかけるように、昨今では業界における不適切な慣行などに厳しい目線が向けられ、広告出稿を取りやめる事態も報じられています。
もちろん、誰かを傷つけるような古い業界慣習は時代に合わせて変化させなければいけません。しかし一方で、残さなければいけない存在価値があるとすれば、それは何でしょうか。
記者クラブに常駐する記者たちは長年、自治体の動向をつぶさにチェックし、「権力の監視」や「税金の無駄遣いへの抑止力」としての機能を果たすため取材・発信を重ねてきました。その役割が、SNSやプラットフォーム企業などに取って代わられる姿をイメージすることはなかなか難しいのではないでしょうか。