躁鬱ブルース1 【小説第1編】
夏に入り、うだるような暑さの日になる予報だった。天は眩しい青さで、空気が澄んでいた。朝日はガラスの窓に透って、ベッドの足元にあたった。まだ午前の9時といっても、外は暑苦しそう。しかし、部屋のなかはエアコンが効いてうすら寒い。ベッドの隣のテーブルの上に、朝食が用意されていた。パンとジャムにカフェオレとヨーグルトと片方の果実というメニューがトレーにあたふたと盛り合わせたように並んでいた。誰かが部屋に入ってテーブルに置いてから、30分程はたったが病人は食欲ないのか、朝食に手を触れなくてそのまま置きっぱなしだった。ベッドにまだ横になっている若男の目は開いていたが、身体に力がないみたいにじっとしていた。
「おはようございまーす」元気いい声で挨拶して、ナースが部屋に入ってきた。
隔日通ってくるナースさんだった。このナースは最初から名札を外して働いて、本名は不明だった。患者からはただ「ナースさん」と呼ばれていた。
若い女性のナース、常にマスク着用して可愛いとはいえないまでも、きれいな目だけは見える。その目は笑顔で輝かせて、うきうきな気分で仕事をしていた。毎日のごとうつやトラウマを抱えている患者に接するというのに、意外と明るい気持ちでいられるナースだった。
「明星さん、今日はご機嫌どうですか?」
明星は心が痺れているみたいに無表情で、何も言わなかった。ただ、回診がやりやすくできるようにベッドに座り上がった。まずは血圧を測ってから、気分や便通や健康と精神の状態に関する質問が聞かれて、それにそっけない返事で答えた。薄い声で「はい」としか言えない元気がない心境だった。
回診が終わってから、最後にナースさんが言った。
「今日はお姉さまが訪問しにくるそうですね。お楽しみしていると思います」
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