【 27首 】 Integrity / 回想 : 現代短歌
”わたしのぜんぶを残しておくから。それじゃ、いくね”
僕は間違えないようにあの子の詠んだ詩全部を捨てた。
〖回想1〗
指折りで 罪を数えられるうちに 空に投げつけた イノセンス
君が奪った僕といっしょに夏まるごと冤罪でいい
ずっとクライマックスでもいいよ。たったの余命数文字だからさ
たったひとりで冒険に出たかった。泣き虫でも、夜が怖くても、
タイムリミットは呼吸を忘れるまでよインテグリティ:“I Love You”
+
いたいけな少女はいなかったけれど、ただわたしはフリルの服をガラス越しに眺めてた
穢いほうが綺麗だなんて。煌めきの中でラムネ瓶のビー玉は夏を呑む
みっつもシロップを入れるなんてずるいー、と口を尖らせるブラックコーヒーが好きな君
たったの300円ちいさいせかいで神様になれた気分だった 眩しい記憶と駄菓子屋、今はもう無い
〖回想2〗
朝の流れ星、昼の蛍、夜のわたし
それだけのこと。あれだけのこと。 秘密基地の残骸
雪を構わず掻き分ける 裸足を夢みるスノーブーツ
人工だとかどうだっていいの、私の心臓は今、右でうごいている
レプリカだったのね、あの子はイチゴ味よりぶどう味が好きだった
満月は御伽噺になったよ。月がすこし砕けたから
+
モナ・リザはまるでx2-x-1=0のごとくほほえんでいる
耳に提げたスノードロップ IVMeerは日付を書かない
〖回想終了〗
幸せを知っているでしょう ただ過ぎる日々を「ただ」にしないこと
「不確定な輪郭」紫煙をくゆらせる、懐かしさを纏う。
何も忘れ無いしそばにいるから わたしは光がすき
質量が世界で 魂が天国で 唄う
簡単なことでいつも世界はできている 例えば、生まれる前の白い記憶
不安な夜を吹き飛ばす それがきっとあなたとわたしのくだらない意味
いつでも神様は笑っている いつも誰かが笑いたいと泣くから
宵月を見てください 月は遠くで、あるいは近くで 知っている形をしている
道も 街も あの頃と同じでは無いけれど 面影はほのかに
全部愛している、軽率で陳腐な言葉でも確かにわたしはここが好きで
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ゴミ箱を漁った。
無論、その丁寧に綴られた手紙は少しシワがついている程度だ。ハサミで
切り刻む、とか余った万年筆のインクでぐちゃぐちゃにするような勇気を
僕が持ち合わせているわけが無い。
もしもそんな大層な人間になれていたら、あの子はこの紙切れにならなか
ったからだ。
ならば灰になってしまえ。
そうしたらもう僕もあの子もなんにも無くなって、全部どこかに置いてき
たことになるだろうと思うから。
炎に紙を近づけると何か浮かび上がってきた。全て見通した上で僕のため
に、僕をからかうためにあの子は楽しそうな言を吐いた。紙の上で、暖炉
の傍で詠った。
+
愛してると伝えたかったんだ。
冷たい石の溝に刻まれたあの子の名に、あの子は宿っていないのに。
僕は朝の市場で一番端の貧しい家族のチェリージュースを盗んだ。
だからこれは弔いにしては恥ずかしすぎる僕の罪だ。
…それじゃあ足りない罰が君とのさよならならそれは…それはとても惨めで
悲しいことだ。
ゆっくり蓋を剥がして墓石の真上からジュース瓶をひっくり返す。固形の
果肉はなにかに引き摺られるようにゆっくりと灰色を落ちていき、赤い水
とともに土に沈んでいく。虚しくて、僕は1歩だけ後ずさって振り返った。
「…ママ」
向かいの家からまた3軒隣の子供だ。
このザマを見てはしゃぐわけでも泣くわけでもなく、拙く走って母親の方
へ逃げていく。
これが何に見えたのだろう。何に見えたとしても意味話さないけれど。
永遠が無かったこと、僕の罪はひとつでは無いこと、それは君も同じであ
ること、夏は酷く盲目を誘うこと、命は夢とレプリカに似ていること、そ
れから最後にいくつか。
あなたのすべてをこんな陳腐な詩歌では語りきれないこと。
あなたの言葉を持ってして、今僕は全てを燃やしたこと。
僕はひどく空っぽで、喉が渇いたから微かに残った瓶のジュースを飲んだ。
僕はそんな飲んでしまえる人間だ。
まばゆいあなたに愛されていた瞬間の穢れなさを今知ったと言ったら、あ
なたに逢いに行く口実になるだろうか。
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回想は終わりました 空っぽのジュース瓶を棄てる
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