祖母の言葉。
「あんたを殺して、ばあちゃんも死ぬからの」
高1のとある深夜、祖母に言われた一言。
わざわざ二階にある私の部屋へ、足の悪い祖母は忍び足で、私にバレないように、部屋に入ってきた。
絶対にバレていないと思った。
でも祖母は確信に満ちた顔で私を問いただした。
感情的に問うてくる祖母に、私はいつもになく冷静に事実であることを伝えた。
いや、違う。
事実であることに気づいて欲しかったのかもしれない。
だから、毎日少しずつ、祖母にヒントを出していた。
自分が暴走族に入る契約を済ませたこと。
今私は、ベンチャー企業で人事をしている。
百名規模でIPOを事前に控える大事な時期。
部下は5名。
偉そうにも肩書きは人事部長。
社会を本気で変えたい社長と幹部とともに、
会社の発展を通じた社会貢献を心から目指している。
ときにブツかり、ときに従う。
人事とは権限があってないようなもの。
それは人事部長になっても権限の大きさとは全くの別次元においては変わらない。
よくテレビに出てくるような「全て思いのまま」の人事部長なんていない。
もしいたとしたらその会社にそれ以上の発展はないだろう。
現在の世の中は、至る所で合議制。
カリスマ社長の鶴の一声でさえも、投資家の前では威力はない。
コミュニティの中ではカリスマなトップも、コミュニティを出れば、『普通の人』である。
ひとによってやり方は違えど、
『普通の人』ではないことを大小問わず何かしらの方法で示し、マウントを取られないよう努める。
上には上がいる。
全て思い通りになる世の中は存在しない。
だから人生は面白いし、ストーリーになる。
世界を代表するミリオネアな起業家ほど現状に満足しておらず、常に先へ進もうと努力する。
例えばイーロンマスクは火星を見据えている。
人間の野望は果てしない。
16歳の私は、『契約』を交わした。
私にとってはとても大きな、小さな小さな野望の始まりだった。
当時私の故郷は、戦乱。
暴走族が全てにおいて勝った。
裕福な家庭に育った私のような中学生は、暴走族の資金源と思われたのだろうか。
中学1年から3年まで、毎年2回は恐喝にあった。
盗まれるのは2000円から多くて5000円。
今で言えば大したことのない金額だが、当時でいえば大金。
大好きな釣りのルアーが2個買える。
恐喝されるたびに思った。
もっと強くなりたい。
中学3年。
繁華街の横断歩道で、暴走族に背後から肩を組まれ、そのまま裏通りへ連行された。
いつものように恐喝をされた。
ただ、私だけお金を取られなかった。
金銭授受の代わりに仲間になる誘いを受けた。
よほど人材不足に悩んでいたのか。
4人の中で私を指名した彼らは言った。
「お前だけチャンスをやる。あそこにいるやつをカツアゲして来い。そうすればお前も仲間も助ける。」
戸惑いつつも、言われた通りに実行した。
正直に話そう。
気持ちよかった。
強者か弱者から搾取する。
正確には、弱者の後ろ(バック)に強者がいて、強者と勘違いした弱者が弱者を搾取する。
気分が良かった。
強者とはこれほどまでに気分が良いのか。
その1年後のことである。
変化に気づいた祖母が、私の部屋を訪れたのは。
そして、取り返しのつかない過ちを犯そうとしていることに気づいたのは。
契約はクーリングオフできた。
私の仲間がかばってくれ、かわりに木っ端微塵にされた。要するに私は逃げた。
それでも仲間は仲間でいてくれた。
今でも親友であり、一生裏切れないほどの借りができた。
後戻りできない不良になりきれなかった、後戻り可能な中途半端な不良少年。
右往左往する私だが、いまは大きな夢がある。
「人の人生をプラスに導く」
簡単なようで簡単ではない。
決して壮大ではなく本質だけに絞った一点の夢。
人事部長として経営に参画しながら、
私は闇と戦い、今同じような境遇の迷い子を救う活動をしている。