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貨幣価値の証明

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貨幣価値の証明

法定通貨(fiat money)の価値を証明をします。

結論を先に述べると、政府が国民に対して租税債務を課すことで貨幣の価値が保証されます。

表券主義

表券主義の主張は以下。

  1. 貨幣は国家が制定するものであり、国家貨幣である

  2. 貨幣は財・サービスの支払いのための計算単位である

  3. 国家は租税を課し、貨幣を租税の支払い手段として定めている

現在の地球上で、表券主義以外の貨幣体系を使っている場所は、基本的には存在しません。表券主義(法定通貨制度)は、貨幣の価値が政府によって定められ、それに対する信頼に基づいている貨幣体系です。ほとんどの国では、この体系が採用されています。

過去には、金本位制や銀本位制など、貨幣の価値が特定の量の金や銀に裏付けされている体系が一般的でした。しかし、1971年8月のブレトンウッズ体制崩壊を通じてほとんどの国がこれらの体系から離れ、表券主義に移行しました。

したがって、現代の世界経済においては、ほぼすべての国が何らかの形で表券主義に基づく貨幣システムを採用しています。

表券主義の証明

定義

$${Gov}$$: 政府(Government)
$${M}$$: 貨幣(Money)
$${T}$$: 租税(tax)
$${G}$$: 商品(Goods)
$${S}$$: サービス(Service)

1. 命題「表券主義国家は貨幣を制定する」

$$
Gov ⇒ M
$$

表券主義国家は自国の通貨を制定します。これは、国家が通貨の発行権を持つという事実を表しています。

1.1. 対偶法による証明:

対偶命題:「貨幣が制定されていない場合、それは表券主義国家ではない」

$$
¬M ⇒ ¬Gov
$$

貨幣が制定されていない場合、それは表券主義国家ではないと言えます。
したがって、この対偶命題は真であり、元の命題も真であることが証明されます。

1.2. 背理法による証明:

否定命題:「表券主義国家であるが、貨幣を制定していない」

$$
Gov ∧ ¬M
$$

この否定命題は、「表券主義国家であるにもかかわらず、貨幣を制定していない」という状況を描いています。しかし、表券主義国家であるということは、その国家が通貨を制定する権限を持つことを意味します。
これは否定命題と矛盾します。したがって、元の命題が真であることが証明されました。

2. 命題「貨幣は財・サービスの支払いのための計算単位である」

$$
M ⇒ (G ∨ S)
$$

貨幣は、財やサービスの取引における計算単位として機能します。
これは、貨幣が価値の交換媒体としての役割を果たすという事実を表しています。

2.1. 対偶法による証明:

対偶命題:「貨幣が財・サービスの支払いのための計算単位でない場合、それは貨幣ではない」

$$
¬(G ∨ S) ⇒ ¬M
$$

貨幣が財やサービスの取引における計算単位として機能しない場合、それは貨幣とは言えません。
したがって、この対偶命題は真であり、元の命題も真であることが証明されます。

2.2 背理法による証明:

否定命題:「貨幣であるが、財・サービスの支払いのための計算単位ではない」

$$
M ∧ ¬(G ∨ S)
$$

この否定命題は、「貨幣であるにもかかわらず、財やサービスの取引における計算単位として機能しない」という状況を描いています。しかし、貨幣であるということは、その貨幣が価値の交換媒体としての役割を果たすことを意味します。
これは否定命題と矛盾します。したがって、元の命題が真であることが証明されました。

3. 命題「国家は租税を課し、貨幣を租税の支払い手段として定める」

$$
Gov ⇒ T ∧ M
$$

表券主義国家は、その国民に対して租税を課します。また、表券主義国家はその租税の支払い手段として貨幣を定めます。これは、表券主義国家が租税を通じて貨幣の需要を生み出し、その結果として貨幣の価値を維持するという事実を表しています。

3.1. 対偶法による証明:

対偶命題:「租税が課されず、または貨幣が租税の支払い手段として定められていない場合、それは表券主義国家ではない」

$$
¬T ∨ ¬M ⇒ ¬Gov
$$

租税が課されず、または貨幣が租税の支払い手段として定められていない場合、それは表券主義国家ではないと言えます。
したがって、この対偶命題は真であり、元の命題も真であることが証明されます。

3.2. 背理法による証明:

否定命題:「表券主義国家であるが、租税を課さず、または貨幣を租税の支払い手段として定めていない」

$$
Gov ∧ (¬T ∨ ¬M)
$$

この否定命題は、「表券主義国家であるにもかかわらず、租税を課さず、または貨幣を租税の支払い手段として定めていない」という状況を描いています。しかし、表券主義国家であるということは、その表券主義国家が租税を課し、その租税の支払い手段として貨幣を定めることを意味します。
これは否定命題と矛盾します。したがって、元の命題が真であることが証明されました。

以上の証明から、「貨幣は表券主義国家が制定する国家貨幣であり、貨幣は財・サービスの支払いのための計算単位であり、表券主義国家は租税を課し、貨幣を租税の支払い手段として定める」という事実が確認されました。

これらの事実は、国家が貨幣の供給を制御し、その価値を維持するための重要な手段であることを示しています。

租税貨幣論

租税貨幣論とは、「貨幣(現金・銀行預金)が価値を持つのは、貨幣で税金を払えるからだ」とする理論のことです。表券主義の一部です。

L・ランダル・レイは「租税が貨幣を動かす(Tax drives money)」と表現しました。

前述の表券主義の通り、国家は次の2つのことを行っています。

  1. 通貨発行:租税債務の支払手段となる貨幣を発行する

  2. 課税:国家は租税債務を国民に課す

こうして、貨幣には納税義務の解消手段としての需要が生じます。通貨が政府に納税されたとき、租税債務は解消されます。

その結果、人々は貨幣に額面通りの価値を認めるようになり、貨幣を民間取引の支払いや貯蓄などの手段としても利用します。このように貨幣は流通します。

政府が租税を必要とするのは、歳入を生み出すためではありません。貨幣の利用者たる国民が、税金払うために通貨を手に入れようする需要を生み出すことで、政府に対し国民が労働力、資源、生産物を売却するように仕向けるためです。

ただし、貨幣を動かすには、回避することが困難な、かなり広範な課税と必ず租税を徴収する力が必要になります。

租税貨幣論の証明

定義

$${Cit}$$: 国民(Citizen)
$${Gov}$$: 政府(Government)
$${M}$$: 貨幣(Money)
$${T}$$: 租税(tax)
$${V}$$: 貨幣の価値(Value)
$${Dr}$$: 債務の存在(Debit)
$${Cr}$$: 債権の存在(Credit)
$${Dm}$$: 需要(Demand)
$${G}$$: 商品(Goods)
$${S}$$: サービス(Service)
$${Sell}$$: 売却

1. 命題「国民が政府に対して租税債権を持つ場合、政府はその対で租税債権を有する」

$$
Dr(Cit, T) ⇒ Cr(Gov, T)
$$

債権・債務の証明より

2. 命題「政府が国民に対して租税債権を持つことで、国民は貨幣(租税を支払う手段)を求める」

$$
Cr(Gov, T) ⇒ Dm(Cit, M)
$$

これが国民の貨幣需要を生み出します。

2.1. 背理法による証明:

否定命題:「政府が国民に対して債権(租税)を持つが、国民は貨幣を求めない」

$$
Cr(Gov, T) ⇒ ¬Dm(Cit, M)
$$

この否定命題は、「政府が国民に対して債権(租税)を持つにもかかわらず、国民が貨幣を求めない」という意味です。しかし、政府が国民に対して債権を持つということは、国民はその債務を解消するために貨幣を必要とします。これにより、貨幣に対する需要が生じます。このことは否定命題と矛盾します。したがって、元の命題が真であることが証明されました。

2.2. 対偶法による証明:

対偶命題:「国民が貨幣を求めないなら、政府は国民に対して債権(租税)を持たない」

$$
¬Dm(Cit, M) ⇒ ¬Cr(Gov, T)
$$

この対偶命題もまた真で、国民が貨幣を求めない場合、政府は国民に対して租税を課すインセンティブがなく、したがって政府は国民に対して債権を持たないという事実を示しています。したがって、元の命題が真であることが証明されました。

3. 命題「国民の貨幣需要が存在する場合、貨幣の価値が保証される」

$$
Dm(Cit, M) ⇒ V
$$

国民が貨幣を求めるという需要が存在するとき、その貨幣の価値は保証されますと
いう事実を表しています。

3.1. 対偶法による証明:

対偶命題:「貨幣の価値が保証されていない場合、国民は貨幣を求めない」

$$
¬V ⇒ ¬Dm(Cit, M)
$$

貨幣の価値が保証されていない場合、国民はその貨幣を求める動機を失います。なぜなら、価値が保証されていない貨幣は、商品やサービスを購入する手段として機能しません。したがって、対偶の命題が真であることから、元の命題 $Dm(Cit, M) ⇒ V$ は真であると証明されます。

3.2. 背理法による証明:

否定命題:「国民が貨幣を求めるが、その貨幣の価値が保証されていない」

$$
Dm(Cit, M) ⇒ ¬V
$$

国民が貨幣を求める場合、その貨幣は一定の価値を持つと期待されます。その期待が満たされない(つまり貨幣の価値が保証されていない)場合、国民はその貨幣を求めなくなります。したがって、国民が貨幣を求めているのにその貨幣の価値が保証されていないという状況はありえません。よって、命題 $Dm(Cit, M) ⇒ V$ は真であると証明されます。

4.命題:「国民が政府に対して租税債務を持つと、貨幣の価値が保証される」

$$
Dr(Cit, T) ⇒ V
$$

上記の命題を結合して、「国民が政府に対して租税債務を持つと、貨幣の価値が保証される」という命題を導き出します。
国民が政府に対して債務(租税)を持つと、政府はその対で債権(租税)を有します。これにより、国民は貨幣(租税を支払う手段)を求め、貨幣需要が生じます。貨幣需要が存在すると、貨幣の価値が保証されます。

したがって、政府が国民に対して租税債務を課すことで貨幣の価値が保証されることが証明されました。

5.命題「国民は貨幣を得るために、財やサービスを売る」

$$
Dm(Cit, M) ⇒ Sell(Cit, G ∨ S)
$$

国民が貨幣を得るためには、何らかの財やサービスを売る必要があるという事実を表しています。国民が貨幣を得る唯一の方法は、自分が所有する何か(財やサービス)を他人に売ることです。したがって、国民が貨幣を得るためには、財やサービスを売る行為が必要となります。

5.1.背理法による証明:

否定命題:「国民は貨幣を求めるが、財やサービスを売らない」

$$
Dm(Cit, M) ∧ ¬Sell(Cit, G ∨ S)
$$

国民が貨幣を求める場合、その貨幣を得るための手段として、財やサービスを売ることが考えられます。しかし、否定命題は「国民は貨幣を求めているにもかかわらず、財やサービスを売らない」という状況を描いています。これは矛盾しています。したがって、元の命題が真であることが証明されました。

5.2.対偶法による証明:

対偶命題:「国民が財やサービスを売らないなら、国民は貨幣を求めていない」

$$
¬Sell(Cit, G ∨ S) ⇒ ¬Dm(Cit, M)
$$

国民が財やサービスを売らない場合、それは国民が貨幣を得るための主要な手段を行使していないことを意味します。したがって、国民は貨幣を求める動機が弱くなるか、または存在しないと考えられます。このため、対偶の命題が真であると言えます。したがって、元の命題が真であると証明されます。

6.命題:「国民が政府に対して租税債務を持つと、国民は貨幣を得るために、財やサービスを売る」

$$
Dr(Cit, T) ⇒ Sell(Cit, G ∨ S)
$$

国民が政府に対して租税債務を持つと、政府はその対で租税債権を有します。これにより、国民は貨幣(租税を支払う手段)を求め、貨幣需要が生じます。貨幣需要が存在すると、国民は貨幣を得るために、財やサービスを政府に売ることが考えられます。

参考文献

  1. 高橋是清とMMT, 中野剛志 - 日本金融学会

  2. 貨幣の名目性:表券主義の貨幣理論, 内藤敦之 - jstage

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