見出し画像

歌集『てのひらにほどけた雪の描き出すちいさな泉へ放つひかり』が織りなす世界

こちらのnoteは、株式会社宿木屋の代表である宿木雪樹さんと、ライターの三角園いずみさんの共著『てのひらにほどけた雪の描き出すちいさな泉へ放つひかり』のレビューになります。三角園いずみさん、宿木雪樹さん、このたびは素敵な歌集をご恵贈くださりありがとうございます。

***


以前より短歌が身近になった、と感じる。

5・7・5・7・7の31音に、喜びや悲しみなど多様な思いをのせ詠われた短歌たちが、SNSの海を漂う光景に違和感はない。なかでも自由度が比較的高い「現代短歌」は、詠み手の感性が光り、尚且つ身近な題材を扱うため共感することも多い。言葉の組み合わせ方に、その人の個性が表れるところも好きだ。

今回ご恵贈いただいた『てのひらにほどけた雪の描き出すちいさな泉へ放つひかり』(宿木文庫)も、お二人の感性が光る一冊となっている。

まず、本書を受けとった時あまりの美しさに言葉が出てこなかった。透け感のある真っ白なカバーの下には雪の結晶のようなモチーフが描かれ(私に撮影技術がないばかりに、見えにくい画像で申し訳ない)、それ越しに模様がうっすら見える。繊細で美しい佇まいに、しばらく歌集を開くことを忘れ眺めてしまった。

そして、さらりとした手触りが心地よい表紙をめくると、その先には三角園さんと宿木さんが織りなす短歌の世界が広がっていた。

「一週間だけの神様として台所に北国からのメロン」
「スーパーに並ぶマンゴーを手に取っていや宮崎でと笑って戻す」

『てのひらのほどけた雪の描き出すちいさな泉へ放つひかり』より

本書は、三角園さんが詠んだ短歌に対して宿木さんが一首詠む、という形で構成されている。なかでも、個人的にとくに好きなのが上記の短歌である。

宮崎県と北海道。各々が暮らす土地を想像できる果物が、簡単には会えない距離であることを教えてくれている。だが、前後の言葉から、距離はあれど相手を大切に思う気持ちや、会える日を心待ちにしている様子も伝わってくる。少なくとも私は、この短歌を読みそう感じた。

その他にも、「PDCAサイクル」や「PayPay」などといった、現代的な単語が織り込まれたものから、「百日紅」のような季語を含むものまで、さまざまな短歌が真っ白なページの上を行き交う。輝きが眩しいもの、光の内側にひっそりと影を抱えるもの、力強さと爽快感を伴うものなど、表情豊かな短歌たちがテンポよく交わされてゆく。それが、読んでいてとても心地よい。

なにより、詠まれた短歌の情景が自然と脳裏に浮かんでくる。これは、書くことを生業にしているお二人だからこそ、だろう。正直、まだまだ紹介したい短歌は沢山ある。「三角園さん(宿木さん)が詠う短歌の!この部分が素敵で……!」と言ってまわりたい、熱弁したい。したいけれど、『てのひらにほどけた雪の描き出すちいさな泉へ放つひかり』は、あなたの手で触れて、その目で見てほしい。

本書は、短歌だけが作品ではない。デザインや使用されている素材を含めて、ひとつの作品である。触覚と視覚の両方で楽しむことにより、本書の魅力を余すことなく堪能できる。本書を初めて目にし、表紙をめくり、そして読み終えた時、私はそう感じた。

私は、言葉と誠実に向き合う本書が、多くの方に読まれることを心より願っている。改めて、三角園さん、宿木さん、このたびは素敵な歌集をご恵贈くださり本当にありがとうございました!

【歌集に関する情報】
『てのひらにほどけた雪の描き出すちいさな泉へ放つひかり』は、BOOTHにて予約を開始しています(※発送は、2025年1月10日以降になるそうです)。

【著者情報】

そして、宿木屋にはもう一人、ayanさんという素敵なライターさんがいらっしゃいます。ayanさんは宿木さんとの共著で、旅エッセイ集『往き、綾なす』を制作されました。こちらも、BOOTHにて予約が開始されています(※同じく、発送は2025年1月10日以降です)。


いいなと思ったら応援しよう!

鶴田 有紀
最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事が参加している募集