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【私の本棚紹介】その2 葉室麟『刀伊入寇 藤原隆家の戦い』~これが真の武闘派麻呂だ~

 先日掲載した「柳生一族の陰謀」の記事もそれなりに多くの方に見ていただけたようです。感謝申し上げます。

 最近は「Ghost of tsushima」が大人気で、時代劇好きの私もイメージ画像やPVを見たときに「これは買うしかない!」と意気込んで購入しました。
 鎌倉政権期の元寇(蒙古襲来)における対馬が舞台となっており、一人の侍が対馬を取り戻す戦いを繰り広げていくゲームとなっています。

 グラフィックやキャラの動作などは勿論のこと、ストーリー展開やキャラデザイン、ステージの細部にこだわる部分など完成度の高い作品だなあと感じております。中でも、私は納刀の仕方やカメラワーク、斬る動作などが流麗で感動さえ覚えました…いやあ素晴らしい作品が出てきたなあと思っている今日この頃です。

 さて、今回はそんな「元寇」に遡ること200年ほど前、モンゴル帝国が生まれるはるか昔に女真族(刀伊)という民族が日本に襲来・上陸した「刀伊の入寇」という事件とその事件に対応した貴族、藤原隆家という人物を題材にした小説をご紹介します。

1.あらすじ

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 時は平安中期。時の権力者・藤原道隆公の次男として朝廷屈指の貴公子として知られた貴族、藤原隆家。その性格は世の中から「さがな者」(荒くれ者)と呼ばれるほどで、花山院や藤原道長などの権力者との闘争に明け暮れる日々であった。
 しかし、父・道隆公が亡くなり、道長との政争が激化していく中で、兄である藤原伊周と花山院の間で起こった諍いが原因で、兄弟ともども中央での政治権力闘争に敗北。藤原道長によって貶められ、伊周は大宰府へ、隆家は出雲国へ左遷されることとなった。ほどなく帰京し、天皇の外戚となるべく奔走するもそれも叶わず、眼病の治療という目的で大宰府への任官を志願。
 善政を布く隆家だったが、対馬・壱岐に異民族が上陸し、襲撃したとの報せが大宰府に到来。未曾有の危機に対して隆家は九州の武士団を招集し、「刀伊」との対決に臨むのであった。

2.この作品の特徴

 この作品は史実に基づいたフィクションなので、ちょっと無理のあるストーリー展開や登場人物の関係がそこらかしこにありますが、実際にあった(とされる)エピソードとの織り交ぜ具合はなかなかの妙技であるなと感じます。
 例えば、かの有名な清少納言の「枕草子」に藤原隆家と清少納言がやりとりをする「中納言参りたまいて」という話が小説の中に盛り込まれています。一般的には清少納言が隆家の発言に気の利いたコメントを返したという清少納言の頭いい自慢エピソードというものなのですが、そのエピソードを単に入れ込むがのではなく、清少納言が隆家にとって良き姉のような存在(年齢差や教養の差とその間柄的に)であり、その教養からこの物語において読者に様々なことを説明してくれる賢人役にするためという目的意識を持って物語の中に引用していると思われます。

 更に物語を二部制にし、第一部では都で行われていた道隆一門である中関白家と道長一門である御堂流の勢力争い、清少納言と紫式部、隆家の従者である平致光と済子女王との関り、そして謎の「百鬼夜行」…謎という風呂敷を広げて、第二部において刀伊との苛烈な戦いの中でその謎や関りを大きく回収していくという王道的な展開を見せます。
 藤原実資の『小右記』『枕草子』『紫式部日記』など平安期の書物としてはおなじみのものからエピソードを豊富に引用し、物語のリアリティを増させる演出も豊富に入っています。歴史小説の王道を邁進するその様は歴史小説好きならずとも、歴史小説の面白さを十分に堪能できるものとなっています。

2a.藤原隆家の豪傑ぶり!

 「尊卑分脈」を見てもわかる通り(見なくてもwiki見たらわかるけど)、藤原隆家という人物は正真正銘貴族界の貴公子で、関白・藤原道隆の次男であってあの有名な中宮定子の兄弟なのです。自身も若くして従三位・権中納言という高位に就いており、「枕草子」をはじめ、「大鏡」や「小右記」にもその逸話が載る大変有力な人物でした。
 その貴公子が法皇に矢を放ったり、大宰府の長官として異民族の襲来に備えるなど「柳生一族の陰謀」の烏丸少将もびっくりの豪傑ぶりがうかがえます。豪傑というよりも当時の評価は「さがな者」であったので、「さがなし」つまり粗暴でやんちゃな人物だと評されていたので必ずしも好い評価とは言い難いですが、刀伊を撃退したことは評価されており、「大鏡」には「公家、大臣・大納言にもなさせたまひぬべかりしかど、御まじらひ絶えにたれば、ただにはおはするにこそあめれ。」(大鏡 第四巻)とあり、昇進はなかったものの、大いに評価されていたことが伺えます。
 フィクション泣かせの公卿というのはなかなか興味深いものです。

3.おわりに

 元寇の際に「Ghost of tsushima」で舞台になっている対馬や壱岐は侵攻軍によって甚大な被害を被っていましたが、この刀伊の入寇においても多くの被害を受けています。中でも当時の壱岐国司であった藤原理忠の奮戦ぶりは「Ghost of tsushima」で描かれた小茂田の戦いさながらのようであったとされています。
 歴史的には少しマイナーな出来事ですが、異国との最前線にあった対馬、壱岐、大宰府などの歴史に目を向けてみるというのも興味深いものかもしれません。

【書誌情報】
書籍名 「刀伊の入寇 藤原隆家の戦い」
作者名 葉室麟
出版社 実業之日本社
出版年 2014年
ページ数 336頁
https://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-55167-8

【閲覧資料・サイト】
東京大学史料編纂所 http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/index-j.html
枕草子 http://jti.lib.virginia.edu/japanese/sei/makura/SeiMaku.html
大鏡(駒澤大学総合教育研究部日本文化部門 情報言語学研究室より)https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/txt_ookagami.TXT

【画像引用元】
日本経済新聞(2020/07/25閲覧) https://www.nikkei.com/photo/special/article/?ng=DGXZZO91891420Y5A910C1000000&uah=DF121020129361
実業之日本社(2020/07/24閲覧)
https://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-55167-8

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