第6章 無痛分娩
予定日を過ぎたころ、もうお腹はだいぶ大きくなっていて階段が見えなくて降りるのが恐かった。
とにかくお腹がデデーンと前に突き出しているので、足元が見えない。
靴も見えない。
スーパーに行くと扉に挟まる猫のように、物によくぶつかっていた。
マタニティマークをつけて、妊婦服で歩いていてもお腹にぶつかってくる人もいた。
冬場はとくに厚手のコートを着ているせいもあって、妊婦だと気がついてもらいにくい。
さて、話をもどすと予定日を10日程すぎたころ、お腹がいたくなった。
また不正出血かな?くらいの痛み。
出産は赤ちゃんを大事に一緒に育ててもらうため、立ち会い出産にしていた。
まさか陣痛だとは夢にも思わず、そのまま寝た。
その夜中、痛くて起きた!
その日はリフレッシュのため実家に泊まりに行っていたので、夜中だが母を起こして症状を伝えた。
生理痛がひどくなったような痛みで、すぐに病院に電話してみると「初産ですぐには産まれないと思うので、朝診察にきてください」とのこと。
痛くて眠れない笑
寝ても痛くてすぐ起きる。
そんな中、朝日がのぼってきた。
いよいよ赤ちゃんと会えるのか〜というワクワク感と不安が入り混じったような不思議な気持ちだった。
病院までは片道2時間もかかるので、ありがたいことに朝早く母が運転して連れて行ってくれた。
一応、そのまま出産してもいいように出産セットも積んで行った。
というか出産するつもりだった。
病院につき内診してみると、まだ少ししか子宮口は開いていないということで、いったん帰ることになった。
先生に通院時間が長いので、このまま入院させてもらえないか相談したがベッドが空いておらず、そのまま帰ることになった。
しかし!
その夜、またすぐにこの病院に来ることになる。
夜8時ころ、猛烈に
これは陣痛だ!!!
と分かるくらい猛烈にお腹が痛くなったのだ。
族によくきかれる「おしるし」は全くなかった。
だから油断していた。
とりあえずお風呂には入りたかったから、ザバッと入って夫に送ってもらった。
病院に着いて、入院の手続きをして出産着に着替えた。
ほかにも出産のため来ている妊婦さんがいて、心強かったが後になって後悔することとなる笑
わたしは無痛分娩を希望していたので、背中の骨に注射をして麻酔をいつでも流せる状態にしてもらった。
陣痛中の麻酔処置だったせいか、そんなに痛みは感じなかった。
病室で横になっていたが、なかなか子宮口が開かない。
同じく出産間近の隣の妊婦さんは、痛い〜痛い〜!痛い!と、とにかくうるさかった!
その上に付き添いに来てくれている旦那さんや家族に、当たり散らしていたのだ。
こりゃひどい。
そんなん言っても痛みが減るわけでもないし、ご家族が可哀想だな〜と思いながらグッと痛みをこらえて好きな本を読んだり音楽をイヤホンで聞いたり、お笑いを見ながらゴロゴロしていた。
7割ほどの痛みの陣痛が夜12時から、朝8時までず〜〜〜っと続いた。
となりのうるさかった妊婦は朝方ころに分娩室へと行って、ほっとした。
静かになった病室で陣痛の痛みに耐え、時々くるナースに子宮口をチェックされ、眠ることもできず朝9時ころ先生の診察時間になった。
昨日の夜から子宮口の大きさは、あまり変わっていないらしく陣痛を促して子宮口を開く「バルーン」とやらを入れることになった。
お風呂に入りたかったが、麻酔の管がついているので入れなくて残念だった。
バルーンを入れるのも、そのあとも全く痛くなかった。
な〜んだ、こんなもんかぁと思っていたら30分後くらいに
ぐふあっ!!!!!
という痛みがジリジリとやってきた。
これが本物の陣痛か…すごいな…と痛みを冷静に分析していた。
本物の陣痛ってなんだよ笑
ずっと本物の陣痛ですけど?と自分につっこみたくなる。
でもまだ子宮口は全開ではない。
ナースは「耐えられない痛みになったら呼んでくださいね」と伝えた。
なんだ?耐えられない痛みって…
すこし恐怖を覚えたことを思い出した。
それからは横になって痛みが和らぐように、腰をもんだりテレビを見て気を紛らわしたりして過ごしていた。
陣痛の波が弱いときは、これからの出産のために目をつぶって身体を休めたり。
おしらせしておくが送ってくれた夫は、この日も前の日も夫は仕事のため来ていない。
立ち会い出産に間に合えばいいからと伝えていたのだ。
私の場合、夫はあてにならないので来ても何の役にもたないだろうと思い、出産のときに来てくれればいいと思った。
まだ耐えられる痛みだったので、相変わらずうーんうーんと痛みに耐え、うなりながらベッドでゴロゴロしていた。
夕方ころ子宮口をチェックしに来たナースが
子宮口全開だ!
と驚くとともに、なぜ伝えなかったのかと私に訪ねたが「耐えられる痛みだったので」とだけいった。
痛みに強すぎですよ!と怒られたが怒られる筋合いはないし、褒められたいくらいだよ、こっちは笑
子宮口全開か、そうでないか分かるくらいなら自分で出産している。
起き上がって分娩室へ行こうとする私を
えっ?
えっっ?
痛くないんですか?
とナースは半笑いで止めて、急いで車椅子を持ってきた。
普通は歩けないくらい痛いらしい。
わたしは痛みに鈍感なのだろう。
仕事がおわって病院ちかくのパチンコへ行っていた夫に、ここではじめて連絡をした。
いま思うと陣痛中にパチンコで時間をつぶす夫って最低かもな〜と思うが、そのときの私は何とも思わなかったし、むしろ居てもリラックスできないと思っていた。
確変でも出ていても来てね!必ず!とだけ伝えていた。
分娩室へ行くとリラックスするアロマの香りと、天井にはイルカが泳ぐ映像が流れていた。
先生が来るまでまだ時間がかかるというので、テレビをつけてもらって夫と「はぐれ刑事純情派」を見て笑っていた。
ようやく先生が来て、研修中の女性にも手伝わせても良いかと聞かれた。
若い女性で経験は見るからに少なそう。
はじめての出産でとても嫌だったが、このひとも練習しなければいけないだろうと思い断われなかった。
いよいよ赤ちゃんの頭が下がってきた。
無痛分娩とはいえ麻酔が切れるときは、猛烈に痛い。
それが麻酔投与のおかげで、ずっと続かないのは本当に楽だった。
いきむこともできた。
先生がツボを押すと、いきみたくなり赤ちゃんが下りてくる。
研修生がやると、まったくやらなくてもいいよ!こっちは産みたいんだよ!というような時間が流れた。
早く産みたいわたしはヤキモキする気持ちを抑えて、このひとも練習しなければと繰り返し自分に言い聞かせた。
いまならokしないだろう。
はやく産んでしまいたい笑
ようやく赤ちゃんの頭がでてきた!と触らせてくれた。
正直それどころではなかった。