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2024年上半期 読んで面白かった本40選

2024.9.10更新

24年上半期のテーマは大きく、「民主主義」、「効果的利他主義の倫理」、「資本主義」(柄谷行人の反動)3つだったと思う。色々読んだり積んだりした中から、「今後も読まれ続けるであろう本」、「単純に凄く面白かった本」、「参考になることが多かった本」を中心に、社会学や哲学、サイエンス、ビジネスまで40冊を選んでみた。

後半以降、面倒くさくなってコメントを入れなくなった。気が向いたら加筆する予定。


社会学

フェイ・バウンド・アルバーティ『私たちはいつから「孤独」になったのか』みすず書房

ふと孤独を感じる瞬間があった。「Why alone?」という感じに。でもそもそも、孤独って何よ?と思った時に手に取ったのがこの本。安定の信頼とクオリティのみすず書房だけあって高いし厚い。

中身は真剣そのもの。近代以降拡大した「孤独」概念が時間の経過とともにネガティブな意味を含むものへと変容していくさまは歴史社会学のような面白さがある。原著のシャレも上手に翻訳されていて面白い。

とは言え、この本を読んだ程度では僕の孤独感に変わりはなかった。

勅使川原真衣『働くということ「能力主義」を超えて』集英社

意識的・無意識的に「有能さ」を競う場面がある。就活とか、院の授業のディスカッションとか。あるいはごくごく当たり前の日常にあっても「有能さ」は大きく他者への印象を左右しているように思う。

そうした「能力至上主義社会」の生きづらさと困難さを丁寧にほぐし、じゃあどうするといいの?を考えるきっかけになる一冊。

正直、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んで共感するだけして何も変化を生めなかったビジネスパーソンはこっちを読んで内省したほうが良いと思う。

アクセル・ホネット『自由の権利』法政大学出版局

承認せよ!承認せよ!承認せよ!

ホネットの主著『承認をめぐる闘争』に次ぐ第二の主著とも呼ばれる一冊。承認論研究の積み重ね、ナンシー・フレイザーとの議論などを経て出版された。

新自由主義を徹底的に批判するだけでなく、自由であることの苦しみにも目を向けながらそれでも在るべき社会を模索し続ける。

マイケル・ヤング『メリトクラシー』講談社エディトリアル

定期的に話題になる能力主義。その先駆け的な一冊。一応ジャンルはSFだけど、教育社会学屋の人は絶対に読んでる(はず)。

今のX(旧Twitter)でやってる「コンサルイキり」とか、あるいは「コンサル称揚」も能力主義の問題だと思う。あとはシンプルに大学名による序列化とかも。

とは言え、そもそもこの本自体ずっと絶版で入手困難なので、そこは出版社どうにかしてくださいと思う。

富永京子『社会運動と若者』ナカニシヤ出版

富永先生の本は基本どれも外れない。これもその1つ。この本が面白いのは、序盤の先行研究レビューがかなり丁寧に、精緻に行われている点。ここだけで読む価値しかない。

その上で、以降展開される若者における社会運動の立ち位置は頷く箇所が多い。サブカルチャー化ならまだよくて、今はもっと透明化してしまっているかもしれないとも思う。大多数は未だに社会運動=極左と思っていそう(実際極左もいる)。

宮台真司『制服少女たちの選択』講談社

宮台先生のA面を『権力の予期理論』とするならB面にあたるんじゃないだろうか(詳しくはない)。

多分、今後再版になることは絶対にないと思うので見つけたら関心がなくても持っておくことをおすすめしたい。じゃあどういう話なの?という方向けに話しのエッセンスが掴める対談を置いておきます。

個人的にはもう少し、社会システム理論について考えていてほしかったけど、本人曰く「社会システム理論は終わった」そうなのでなかなか未来は厳しそう。

多田治ら『社会学理論のプラクティス』くんぷる

社会学理論の変遷を最も分かりやすく、かつその要素を掴める一冊なのでは。

ブルデューやルーマン、エリアスなどが具体的な使い方とともに紹介されている一冊。学部生向け?

宮内泰介『社会学をはじめる』筑摩書房

入門書の入門書。環境社会学をコアにしながら、「社会学の方法」がかなり平易な文章でまとめられている。

欲を言えばもう少し理論についての言及が欲しかったけどそういう人は対象じゃないかも。

多田治『旅と理論の社会学講義』公人の友社

これを「社会学の本」と堂々と胸を張って言い切れない歯がゆさが若干あるが、社会学はここまで自由であるというその限界点にある一冊。この先は「エッセイ」。

一旦「型」をちゃんと学んだら、これぐらい自由にやってみるという振り幅が欲しくなった。

シンプルに読み物としても面白かった。


哲学・精神分析

マルクス・ガブリエル『倫理資本主義の時代』早川書房

「哲学書」と言うと哲学屋さんから怒られそうではある。内容自体はかなりビジネス書っぽい。詰まるところ「強欲資本主義」を倫理的にアップデートしよう!という内容だけど、先に斎藤幸平の解説を読んだほうが論点がシャープになると思う。

その上で、脱成長よりはかなり現実的なチョイスだし、試験的に試すこと自体はもっとやられても良いと思う。でも一時期「最高哲学責任者」っぽいのがいたGoogleや「倫理部門」と冠するテック企業がやらかしていたり、そもそもマルクス・ガブリエル自体がハマスをロシアと等価に議論していたりと自説が即座に否定されている感は否めない。

それでもNewsPicks Publishingの『資本主義の中心で〜』というエッセイ本よりは得られるものが多かった。

ハンス・ヨナス『責任という原理』東信堂

2年くらい探していてようやく入手できた1冊。日本だと特に戸谷洋志先生が積極的に紹介しているドイツの哲学/倫理学者、ハンス・ヨナスの代表的な著作。

科学技術社会における責任をどう論じるか?というテーマが中心。未来への責任について論じている。こういう本にありがちな古代文明から遡るスタイルはこの本でも健在。ただしかなり面白い。社会学におけるリスク論とのリンクも見えてくる。

いきなりこれを読むと大変なことになるので戸谷先生の『ハンス・ヨナス』を先に読むと分かりやすい。

ウィリアム・マッカスキル『見えない未来を変る「いま」 〈長期主義〉倫理学のフレームワーク』みすず書房

『効果的な利他主義宣言』でおなじみ、ウィリアム・マッカスキルの2冊目の邦訳書。

効果的な利他主義もかなり自分の考え方に影響を与えた(社会運動や非営利組織への眼差し)本だったけど、今回の長期主義もなかなかにインパクトのあるアイデア。

個人的にはかなり批判的な立場を取る。「長期主義」によって生じる不正義を無視することはできないし、基本的に今起きている不正義と構図自体は変わらないので厳しい。とは言え、今も未来も見ていない人にはぜひ読んでほしい。


藤高和輝『バトラー入門』筑摩書房

『ジェンダー・トラブル』で挫折したバトラー。そんなバトラーに親しみを持てるようになる一冊。

入門書だからと侮るなかれ。いきなり邦訳の解釈についての議論が展開される。研究書や論文でやっているようなやり取りをフックに、分かりやすくバトラーの考え方を説明している。凄い本。

ジュディス・L・ハーマン『心的外傷と回復』みすず書房


マシュー・スチュワート『マネジメント神話』明石書店


ジョエル・ウェインライトら『気候リヴァイアサン』堀之内出版


ピーター・シンガー『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと』NHK出版



政治学

田中拓道『福祉国家の基礎理論』岩波書店


エスピン・アンデルセン『福祉資本主義の三つの世界』ミネルヴァ書房


イマニュエル・ウォーラーステイン『入門・世界システム分析』藤原書店


ロバート・D・パットナム『哲学する民主主義』NTT出版


宮垣元『NPOとは何か』中央公論新社


中井遼『ナショナリズムと政治意識』光文社



経済学

ウィリアム・ノードハウス『グリーン経済学』みすず書房


佐藤主光『日本の財政』中央公論新社


小林慶一郎『日本の経済政策』中央公論新社



生物学・進化論

篠田謙一『人類の起源』中央公論新社


熊代亨『人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造』早川書房



サイエンス

茂木健一郎『脳とクオリア』講談社


近藤一博『疲労とはなにか』講談社


山本高穂・大野智『東洋医学はなぜ効くのか』講談社


和田純夫『量子力学の多世界解釈』講談社



ノンフィクション

スティーヴン・ウィット『誰が音楽をタダにした?』早川書房


今井悠介『体験格差』講談社


三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』集英社



ビジネス

マット・エイブラハムズ『Think Fast, Talk Smart 米MBA生が学ぶ「急に話を振られても困らない」ためのアドリブ力』翔泳社


フィル・ローゼンツワイグ『なぜビジネス書は間違うのか』日経BP


山口周『知的戦闘力を高める独学の技法』ダイヤモンド社


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