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アントレプレナーシップと狂気

「神山まるごと高専」の起業家講師という立場で生徒の前で話をする機会がある。つい先日も神山町まで赴き教壇に立った。2年ほど前の開校時あたりから携わっているので、その変化を遠目からではあるが見れるのが面白いと感じている。

そこの教員やスタッフと話す機会にも恵まれているので、学校運営のリアルを聞くことができるのも大変興味深い。どうやら悩みは尽きないようだが、その中でも特に、「アントレプレナーシップ教育の意味」というのは彼ら彼女らと話していて常に話題に上がってくる。

「起業家育成をひとつのテーマに掲げている学校がアントレプレナーシップ教育の意味を問うているというのはどういうことか」と思われる方もいるかもしれないが、そもそも国語算数理科社会を、それぞれの意味を明確にしつつ教えている学校などあるのだろうか。どこにしたって学習指導要領という大義名分に則っているだけであろう。アントレプレナーシップ教育の意味、ひいては神山まるごと高専の存在意義を問い続ける姿勢は、思考停止に陥っていないという点において評価できると思料する。


話を聞く限り、学校運営側が感じている問題点は大きくふたつあるように思われる。ひとつは生徒たちの承認欲求の強さ。もうひとつはテクニックばかりで内容が伴っていないこと。

前者に関しては「そんなものだろう」と思っている。昔の「モテたい」という欲求が、今日においては承認欲求に置き換わっているだけなのだ。かつてモテたかった学生が部活やらオシャレやらに走ったように、今の子たちはSNS等で耳目を引くことに躍起になっている、ということだ。それが健全であるかどうかはさておき、その欲求自体があることに関しては当然のことだと思う。

後者に関しても、テクニックが向上することに関してはなんら悪いことはない。ここでいうテクニックは、ブランディングやマーケティングなどに関連するような、いわゆる「見せ方」といわれるものが主だが、確かにプレゼンテーションは年齢に比して上手に感じる。尤も、私の世代と違い、今の学生はおしなべてプレゼンテーションに長けているのかもしれないので、同じ年代の他の学生との比較ではどうなのかはよくわからないが。


それらがふたつ合わさった時に、特段やっていることに情熱はなくとも、上手な見せ方で積極的に発信することで著しく承認欲求が満たされる、ということが可能となる。それはそれで結構、という意見もあるかもしれないが、私はそこにあやうさを見てしまっていた。アントレプレナーシップって、そういうことだっけ…?と思っていたのだ。


学生を見ていて、全体的に何かに熱中している感じがないのが気になっていた。その状態でアントレプレナーシップ教育をほどこすことに、どんな意味があるのだろうか、場合によっては先述の通りでただ承認欲求を満たすためのツールになり得ないだろうか…とも思われた。


私の学生時代は部活一色だった。陸上短距離の選手だった私は、それこそ寝ても覚めてもどうしたらタイムを縮めることができるかについて考えていた。速く走れるようになったことで何か益があったかと問われれば甚だ疑問だが、あの時の熱中した経験はきっとポジティブな今に影響を与えているはず。

ただし、私がそうやって部活に熱中できた背景には、そもそも情熱を傾けられる対象が限られていた、ということは無視できない。特に私は全寮制の学校に通っていたから尚更だ。私の中高生活には圧倒的に自由が欠落していたのだ。

その点、今の学生たちは、さまざまな情報に触れ、常に多くの選択肢に囲まれながら生活している。そのせいで、その中からひとつ熱中するものを選び取る方が難しいのかもしれない。もしかすると彼ら彼女らは今まさにそれを模索しているところで、たまたまアントレプレナーシップ教育が先にきてしまっている、と考える方が適切なのだろう。


そんなわけで、やりたいことや情熱がない状態でのアントレプレナーシップ教育について、確かにそれなしでは形骸化しかねないが、現状その情熱がなくとも、いつかそれが生まれたときのために、予めアントレプレナーシップについて学んでおくということは、決して悪いことではないのかもしれない、と今では考えるようになった。情熱のない中でのアントレプレナーシップ教育は、将来興味のある学問で活かすための、それ自体はあまり面白くないかもしれない基礎的な数学の知識のようなものである、と考えると、その価値についてより理解できるのではないだろうか。


そしてある日、「狂気」と呼べるような情熱がそこに足されたときに、爆発的な力を生み出すのだろう。手前味噌だが私がそのケースだったように思う。


狂気は、すべての人が持ち合わせているものではないかもしれない。その上、いつ狂気が“憑依”するかもわからない。だからこそ、それに取り憑かれる前に、アントレプレナーシップを身につけておくことで、時が来た時に爆発できるのだ。


だから、アントレプレナーシップを学びながら、狂気をもてる何かを常に探しておくといいのでは、とこの冬メガネを爆買いしているおじさんは思うのであった。

いや、マジで買いすぎてるのよ、メガネ…楽しすぎて…


狂気も、考えものね…


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