
掛け算とブランドの共通点
朝からずっと、算数の掛け算における「かける数」と「かけられる数」について考えている。
ネット上でよく話題になる「『4人にりんごを3個ずつ配ると、りんごは全部で何個?』という算数の問題に、子供が『4×3=12』と回答したらバツをもらった。先生は『かけられる数×かける数』の順で書かなければならないから、『3×4=12』が正しい、と主張する。これってどうなの?」という、アレである。
再三されている議論なので、それぞれの主張についてはなんとなく理解しているが、私が気になっているのは、なぜ「かけられる数×かける数」の順番なのか、というところ。掛け算における順番の重要性を説いている人の多くが「算数教育においてはそういう順番になっている」ということを論拠としているが、どうしてその順番が正しいとされているのかについての説明を見つけることができなかった。英語圏の算数教育では「かける数×かけられる数」を採用しているところが多いというところを鑑みるに、日本において当該順番が正しいとされている背景は単に日本語的に収まりがいいから、という程度に留まっているのではないか、だとするとそれに立脚して順番の正当性を謳うのは無理があるのではないか、と思ってしまう。思考と言語は不可分ではない一方で違うものなのだから、日本語の言語特性を算数という別ジャンルに持ち込むことが私には正しくないように感じられる。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。今日はそんなことが書きたいのではない。
今、私の目の前には、とある香水の試作がある
私はそれを、世に出すべきかどうか迷っている。とてもとても迷っている。
「出すべきではない」理由はいくつもある。香りのためのみならずレギュレーションの問題を回避する目的もあり、クオリティの高い香料をふんだんに使用しているため、çanomaの他の香水と比べるととんでもなく高価であること、çanomaらしさがあまりなく、嗅ぐ人によってはひどく商業的な香りに感じられる可能性があること、今までのクリエーションとは全く違うプロセスを経ていること、などなど、挙げればキリがない。
逆に、「出すべき」理由はたったひとつ。素晴らしい香りである、ということ。売れる・売れない、評価される・されないに関わらず、私にはその価値がよくわかるがゆえに、出さないことは社会的な損失である、とさえ思う。
さて、私はこの試作をどうするべきだろう。
愚や愚や汝を如何せん…
ブランドを立ち上げてからというもの、いろいろなことを考えるようになった。自分のブランドに関することは当然ながら、特に他のブランドを見て思うことが増えたように思う。ただクオリティの高いプロダクトを作ることだけでも、人気を獲得するだけでもいいブランドにならない。より多面的である必要はある一方で、“八方美人”になると今度はつまらないブランドになる。ブランドとしてのキャラクターをどのように出していくか、どこに重心を置くか、こだわりばかりではなくどこに“こだわらない”か、ということが重要になると、他のブランドの観察の中から私は感じるようになった。
そんなことを考えながらブランドを運営していると、「ブランドらしさ」というものがだんだんと醸成されてくる。çanomaも5年目に入ったから、çanomaのカラーもだいぶ色濃くなってきたところだろう。
この「らしさ」というのは諸刃の剣で、ブランドのキャラクターには不可欠である一方、その「らしさ」があるせいでそこから外れることが徐々に難しくなってくる。「これはçanomaっぽくないからやるべきではない」という判断は、もちろん場合によっては非常に重要だが、時としてブランドの成長や新しい姿を阻害する要因にもなりうるのだ。
そしてその「らしさ」というのは、往々にして「客観的にきっとこのように見られているだろう」というイメージでしかないケースもある。つまり、「顧客はこの施作を『çanomaらしくない』と判断するのではないか」と“疑ってしまう”のだ。その思い込みが、ブランドにとって足枷になりうる。
そんなふうに考えてみると、今私が抱えている悩みというのは、実はそういった類のものなのではないだろうか。素晴らしい香りであるならば、それがどのブランドからであれ、出すことに躊躇するべきではないのかもしれない。私は今、自ら自身に呪いをかけている、という状況なのではないか。
どうなのだろう…
冒頭の算数の話は、ただなんとなく書きたくて筆を走らせてみたので、本題とは何の関係もない。ただ、算数の話も、ブランドの話も、真剣に議論されている割に、もしかしたらあまり本質的な内容とはいえないのかもしれない、という点が共通しているように感じた。
「いい香りだ」と思ったら、世に出す。そのくらいシンプルでいいのかなぁ…
パリ滞在もあと残すところ2週間を切った。その間2日間のアントワープと3日間のミラノがあるので、実質1週間ほどだ。
この間に先の問いに対する回答を出すことはできるだろうか。私は呪縛から解放されてシンプルでいることができるだろうか。そんなことをつらつらと考えながら、残りの滞在を過ごそうと思う。
【çanoma公式web】
【çanoma Instagram】
#サノマ #香水 #フレグランス #ニッチフレグランス #canoma #canoma_parfum #パリ
#フランス