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4年間ありがとう


明るい朝。テレビでは「今季一番の寒さ」だなんて言っていたけれど、全然そんな事ないじゃないか。
風が少なく、小鳥もさえずる心地のよい朝だった。

少しばかり遅れていた電車に乗り込む。
耳からは秦基博の「Rain」が流れていたので僕はさながら新海誠の築き上げた世界の住人のような気持ちにさせられた。
車両内は黒や暖かい色の服で埋め尽くされている。
そんな中、輝くほど真っ白い衣で身を包んでいた人が目に入った。よく見ると70歳くらいのおばあちゃんだ。身長は小さかったが背筋も真っ直ぐ伸びていて、赤い手袋がいいアクセント。おばあちゃんはこの黒い電車の中において存在が際立っており、明らかにヒロインとして優勝していた。僕ももっと明るい服をクローゼットから引っ張りだせばよかったと思った。
そうすれば新海誠がおばあちゃんと僕の物語を紡いでくれるかもしれない。
一体どんな世界観になるのだろう。
すると、サビを迎えた秦基博が耳元で「“土砂降りでも構わない”っと」と何かに箇条書きで書き出したので
土砂降りのなかおばあちゃんに会いにいくシーンだけは嫌でも想像できてしまった。

輝くおばあちゃんを残し、僕は目的の駅で電車を降りた。





今日、4年住んだ家とおさらばした。

大変歴史が詰まった家であり、街だった。
幾度となく浮き沈みを繰り返し、色んな感情をここで味わった。
思い出せばキリがない
近所には《さりげなく》の欠けらも無いほどギンギラギンに輝くド派手なクリスマスツリーを飾るお金持ちが住んでいて、その眩しいツリーを見ながら自分の小さな暗い家に帰っていく虚しさだったり、叫び声をあげる騒音おじさんがある日からどこかへ連行されたり、ペットを飼っていないのにペット用のおしっこマットが家に届いたり、洗濯機が突如壊れて暴れ馬みたいにうるさくなったので全力でなだめたり、真横に住んでいたドイツ人の隣人と苦情をきっかけに友人になったり。
まだまだこんなもんじゃない、4年も住んでいたのだ。

言ってみればこの日記「そう云えば、」は全てこの家に住んでいるときの歴史だ。
そう考えると非常に感慨深いものがある。

しかし、一度引っ越してしまえば
そうそうこの街を訪れることはなさそうである。
きっと、そういうものなのだ。

僕はこれから新しい街で暮らす
ここで過ごした思い出だけを引き連れて
嘘だ、まだおしっこ用マットも持ってきちゃった
あれ売れないかな、、

これからも色んな経験が出来ますように

4年間ありがとうございました。


おわり 

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