詩「テント」
テントの中で目を覚ました
人の気配がしているのに
しんと静かで
わたしは起き上がって周りを見た
すぐ隣にも人はいたが
声を掛けることができない
テントの中は思っていたよりも広くて
そこには大勢の人々がいた
そして外から、誰かから呼ばれるたびに
ひとりまたひとりと外へ出ていく
誰も、一言も話さずに
とうとうわたし一人だけになって
最後に呼ばれる声が聞こえた
外へ出るとみんな歩きはじめていた
これからどこかへ向かうらしい
どこかは分からないけれど
みんな一緒ならたぶん怖くはないだろう
人々の中に、あの人を見つけた
わたしは見失わないように
ずっと目で追い続けたが
遠くにいて話しかけることはできない
そうしているうちに
気づくと少しずつ
人の数が減っているような気がする
よく目を凝らすと
人々は順番に
空に昇っていっているようだった
どういう基準か
わたしは後の方にされていて
あの人が先に昇っていくのが見えた
空は晴れていて太陽はまぶしい
わたしはその眩しさに目を閉じるのだけれど
次に目を開けると
誰もいなくなっている
ただ風だけが吹いていて
分厚い布で出来たテントが
バサバサと音を立てて揺れている
そして遠くの方で声がして
わたしはもう、あの人に会えないことを知る
砂の上に横になると
どこかで何かが動く音が聞こえる
たぶん遠くの方で誰かが歩いていて
ザッザッと鳴る音が
砂を通して伝わってくる
それは聞いた者にしか分からない何か
わたしの身体を一瞬で熱くさせる何かがあって
涙が流れていった
人は人に何ができるのだろう
テントを用意することしかできないかもしれない
並んで歩くことしかできないかもしれない
動いているということを
生きているということを
音や感覚で伝えることしかできないかもしれない
でもそれはきっとただの行為ではなく
時に体温を上昇させ
涙を流させることもある
そしてわたしが歩く足音も
きっと遠くどこかに伝わって
それを聞いた誰かに
色々な思いを起こさせるのだ
だからせめてそれができる間だけは
生きていようと誓った
この風の中で
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