NHK交響楽団第1968回定期公演

昨日、NHKホールにおいてNHK交響楽団の第1968回定期公演の第1日目が行われ、公演の模様をNHK FMの実況中継で鑑賞しました。

今回は、前半が伊福部昭の『シンフォニア・タプカーラ』、後半がショスタコーヴィチの交響曲第10番で、指揮は井上道義でした。

伊福部とショスタコーヴィチのいずれをも得意とする井上が、音が大きく機動力があり、しかも近年は特に金管楽器の安定感が向上しているNHK響と2人の作品を取り上げるのは、2020年12月5、6日のNHK交響楽団NHKホール12月公演以来約2年ぶり2回目となります。

時に雄渾であり、時に繊細な曲想が織り交ぜられ、それまでに現れた旋律の数々が流れ込むかのように音楽の熱量が上がり終わりを迎える『シンフォニア・タプカーラ』は、音量の大きさと躍動的な演奏という楽団の特徴によって、一層魅力的な仕上がりとなりました。

伊福部は管弦楽曲とともに映画音楽の分野でも多くの作品を残したことは周知の通りで、『シンフォニア・タプカーラ』にも音楽を手がけた作品を想起させる旋律が見出されます。

こうした特徴は、例えば武満徹が映画音楽の中で和楽器を西洋の記譜法に基づいて演奏させる方法を施行し、そこで得られた知見を『ノヴェンバー・ステップス』に応用したように、分野を横断させつつ自らの音楽を陶冶させた伊福部の姿がよく示されています。

一方、後半のショスタコーヴィチは、演奏者に臨みつつ作品と一人ひとりの奏者に向かい合う井上の音楽作りがよく表れた演奏でした。

諧謔さを含む旋律の後に深刻な相貌を示し、苦悩の後に清澄な姿が立ち現れる音楽は、演奏者は持てる力の全てを発揮し、指揮者はあたかも挑発するかのような姿でさらに力を発揮させようとすることで、聞き手にとって一瞬でも注意を緩めることのできない、濃密な仕上がりとなりました。

すでに2024年末をもって指揮活動からの引退を表明している井上だけに、翻意しない限りわれわれが井上の音楽作りに接するために残されている時間は2年ほどになります。

その意味でも、年を追うごとに自分の作りたい音楽、自分の望む演奏の実現をより明確な形で示している井上が、前回に引き続き、NHK交響楽団の活動の中心である定期公演において伊福部の作品を取り上げた意義は大きいものです。

そして、今回の公演は、残りの日々の中でいかなる新たな成果を上げることになるのかをさらに期待させる、充実した回であったと言えるでしょう。

<Executive Summary>
Stage Review: NHK Symphony Orchestra the 1968th Subscription Concert (Yusuke Suzumura)

The NHK Symphony Orchestra held the 1968th Subscription Concert at the NHK Hall on 12th November 2022 and broadcasted via NHK FM. In this time they performed Akira Ifukube's Sinfonia Tapkara and Shostakovich's 10th Symphony. Conductor was Michiyoshi Inoue.

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