東京都交響楽団の第1000回定期演奏会の開催を祝す(III)
去る6月4日(火)、東京都交響楽団が第1000回定期演奏会を挙行しました。
日本の職業交響管弦楽団の中で定期演奏会が1000回を記録するのはNHK交響楽団に続いて2団体目となり、本欄ではその快事を東京都響が定期演奏会を開催するまでの過程とその後の楽団を取り巻く状況を検討するとともに、私が定期会員であった1999年度から2010年度の公演を振り返り、祝賀しました[1][2]。
そこで、今回は1999年度から2010年度の定期演奏会に出演したコンサートマスターを概観することで、祝賀のまとめとしたいと思います。
私が初めて東京都響の定期演奏会を鑑賞した1998年は矢部達哉さんが1990年9月1日以来ソロ・コンサートマスターを務めており、潘寅林さんももう一人のソロ・コンサートマスターとして公演を牽引していました。
どのような難曲でも端然と演奏するだけでなく、顔をわずかに上げたり左右に動かすことでオーケストラ全体の流れを時に引き締め、時にあるべき方向へと導く様子は、その力量の高さを視覚的に力強く示すものでした。
それとともに、1997年のNHKの連続テレビ小説『あぐり』でヴァイオリン独奏を務めて一般にも高い知名度を博していた矢部さんの演奏を観ようと多くの聴衆が会場に集まったのも、その実力からすれば当然のことだと思われたものです。
また、潘さんは控え目な様子で舞台に登場し、軽く一礼しつつオーボエに調音を促す様子は、演奏中もやや愁いを含んだ表情であったこととあわせて、印象的でした。
潘さんは2003年に東京都響を退団して上海交響楽団のコンサートマスターに復帰したものの、当時はそれほど大きな出来事として捉えられなかったのは、意外でもあり万事に控え目な印象を受けた潘さんらしいものだと感じたものです。
次にコンサートマスターとなったのは、2000年1月1日に着任した山本友重さんでした。
やはり私が定期会員であった東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団からの移籍ということで、直前までシティ・フィルの公演に出演していた山本さんが東京都響に登場した際には、1997年に篠崎史紀さんが読売日本交響楽団からNHK交響楽団に移籍したことが思い出され、優れたコンサートマスターの流動性の高さを実感したものです。
重心の低い、安定感のある演奏が持ち味の山本さんは着任当初こそ他の奏者との位置取りに気を使っているように思われたものの、次第にその滑らかで厚みのある音楽作りによって矢部さんや潘さんとも異なる性格を導き出すことに成功しました。
そして、私が定期会員であった最後の時期である2009年9月26日にソロ・コンサートマスターとなったのが四方恭子さんです。
それまで京都市立芸術大学や兵庫芸術文化センター管弦楽団での活躍が中心であったこともあって四方さんの演奏を聞く機会はありませんでした。
また、定期会員も2010年度で終えたため、その演奏を堪能することも叶いませんでした。
それでも、限られた機会を通して実感されたのは四方さんが演奏者の間から演奏を持ち上げようとする姿で、こうした特徴が2023年3月31日の退任まで13年半にわたり東京都響の発展を推進する原動力になったのだと推察されます。
残念ながら今年4月1日付でコンサートマスターとなった水谷晃さんと東京都響の演奏はまだ鑑賞できていないものの、歴代の顔触れを振り返ると豊かな個性を備えた皆さんが定期演奏会を支えてきたことが改めて実感されるところです。
[1]鈴村裕輔, 東京都交響楽団の第1000回定期演奏会の開催を祝す(I). 2024年6月9日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/93100c2f5fcdb0fda7e4bcde55f1901b?frame_id=435622 (2024年6月11日閲覧).
[2]鈴村裕輔, 東京都交響楽団の第1000回定期演奏会の開催を祝す(II). 2024年6月10日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/23eefadc2f99d0fe2cbf900a95222ade?frame_id=435622 (2024年6月11日閲覧).
<Executive Summary>
Celebrating the Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra's 1000th Subscription Concert (III) (Yusuke Suzumura)
The Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra (TMSO) held the 1000th Subscription Concert, which was the 2nd case in the history among Japanese professional orchestras, on 4th June 2024. On this occasion, I examine the changes TMSO's history of subscription concert focusing on the changes of concertmasters.
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