『クラシックの迷宮』の妙味を堪能できた「山田太一追悼特集」
本日NHK FMで放送された『クラシックの迷宮』では、2023年11月29日に逝去した脚本家の山田太一さんを追悼する特集が組まれました。
ゲーム音楽やアニメ音楽から古楽まで様々な作品を取り上げ、「クラシック音楽」の奥行きと幅、そして可能性の広がりを絶えず追及するのが『クラシックの迷宮』です。
しかし、山田太一さんは脚本家ではあっても作曲家でも歌手でも演奏者でもありません。そのような山田太一さんを追悼することは、いかにして可能になるでしょうか。
司会の片山杜秀先生は「音楽番組を名乗っておりますので」と前置きしつつ、山田太一さんが師事した木下恵介に注目し、木下が弟で作曲家の木下忠司とともに作り上げた映画やテレビドラマを手がかりに、山田さんと音楽の関係を検討しました。
新たに作られた音楽を用いることがある一方で、既存の曲を活用することが珍しくなかった木下恵介の手法を「主題歌や主題歌に準じる歌が先にあり、その歌が十分に流れ、観客や視聴者がある感情に到達するよう、歌のテンポや長さに合わせて映画を撮る」と規定する片山先生は、木下にあこがれて最初は映画監督を目指し、その後木下がテレビ界に進出するのに伴って脚本家として活動するようになった山田太一さんの作品作りの中に、師の影響を認めます。
そして、日本の社会を大げさな設定や展開ではなく、身近な話題や情景を通して描き出し、小さな話に大きな主題をかぶせる木下の手法を摂取した山田太一さんが、音楽によって物語の世界を規定しながら様々な作品を描き上げた過程を丹念に辿ります。
その結果、『男たちの旅路』『藍より青く』『それぞれの秋』『獅子の時代』といったテレビ史に残る傑作や名作が並べられる中で浮かび上がるのは、成熟した登場人物の完成された話ではなく、未成熟な人物たちの、もがき、苦しみ、それでいながら何かを目指すひたむきさであり、未成熟さの持つ危うさと可能性に山田太一さんが大きく期待してた姿です。
番組の冒頭でジャニス・イアンの"Will You Dance?"を紹介し、「洋楽ファンにはおなじみのジャニス・イアンの名曲でございますが、今日はその特集ではございませんで」と『岸辺のアルバム』に繋げ、山田太一さんを縦糸として各時代の音楽を振り返るという試みは、まさに片山杜秀先生ならではのものであり、このような試みに、「クラシック音楽」の可能性を追求し続ける『クラシックの迷宮』の妙味が詰まっていると言えるでしょう。
<Executive Summary>
The Essence of "Labyrinth of Classical Music" Is Demonstrated with the Feature Programme of Taichi Yamada (Yusuke Suzumura)
A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcast via NHK FM featured Taichi Yamada on the occasion of his death on 3rd February 2024. It might be a meaningful opportunity for us to understand a possibility of "classical music" throgh this pioneering challenge.