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冷戦・政治的紛争に巻き込まれるADV『South of the Circle』が素晴らしく、「きっとエンタメは教養を得るともっと楽しめる」と気づいた

私は1980年代後半に生まれ、1990年代を小学生として、2000年代を中学・高校・大学生として過ごしました。2010年代以降は社会人(ときどき無職)の生活を怠惰に過ごしています。

昔から国語は得意でしたが、それ以外の教科はからっきし。赤点だらけの学生時代でした。人より一般常識が無いのをときどき自覚し、恥ずかしくなることも多々あります。
最新の桃鉄を遊んだときも、地理歴史一般クイズみたいなものが本当にわからなくて。高学歴の友達と遊ぶと、普段意識しない知識の差を感じ、最終的な順位で負けるより恥ずかしくなります。

30代も半ばになり、目の前のことをしているだけではなくある程度仕事や周りを俯瞰する立場になった今、やはり一般常識が無いのはまずいなと、地味に感じてきます。
政治、国際情勢、金融、そういったものを、ニュースで見る以上に自分で考え、咀嚼する必要があるな…と。遅すぎるくらいですよね。
仕事にも関わってきますし、先の桃鉄は友人同士なのでまだいいものの、これが仕事関係で無知を発揮するのはよろしくない。勉強しないといけないと強く思う昨今です。

一方で、そういった知識・教養を得ることで、「エンタメ」もより深く理解できるようになるな…と感じたゲームを、最近プレイしました。

それが、『South of the Circle』です。


ゲームについて

このゲームは、冷戦の政治的な紛争が行われている中、情勢の変化に巻き込まれた2人の教員、ピーターとクララの関係を描くアドベンチャーゲームです。

ゲームは、南極に小型飛行機が墜落するところから始まります。その飛行機には、ピーターともう1人、パイロットが乗っていました。足を怪我したパイロットのため、そして自分のため、助けを求めに彷徨うピーター…。そこから物語が始まります。

ゲームは、南極で行動している「現在」と、南極に行く前の「過去」の回想を交互にプレイします。

生命の危機を感じている現在に比べ、過去の回想はとても穏やか。クララとの出会いや、ケンブリッジ大学の講師として気候学の研究に没頭するピーターの姿、遠回しに教授から「もうちょっとマシな研究をした方がいいよ」とチクチク言われる様子が描かれる日常。

危険とは無縁な日々の中、同じくケンブリッジ大学の講師であるクララとの関係も徐々に変化していきます。

ここまでであれば、まあよくある物語かな…というところなのですが、ここで物語を彩るのは時代性。舞台は、冷戦下なのです。

核軍縮のデモ、ソ連との緊張、国民の間の思想の違い…。これは今まで遊んだアドベンチャーゲームでは取り扱われなかった題材で、初めての体験でした。
戦争を舞台にしたものはあるものの、冷戦下での一般市民の立場、「徐々に自国の雰囲気や国際情勢が変化している」という空気感。

コロナウイルスが初めて発生したときのような、そしてまさにロシアのウクライナ侵攻が開始されたときのような、直接の当事者ではないものの無関係ではない、落ち着かない感覚でした。

落ち着かない世界情勢は、静かに、しかし確実にピーターとクララに影響してきます。地味な研究をしていたピーターも、その影響を無視できなくなり、様々な選択を強いられることとなります。

ピーターは何のために南極を訪れたのか。南極で何を見つけるのか。そして、そもそも南極に至るまでどのような過程があるのか。そのような不明点が、ゲームを進めることで明らかになっていきます。

最後までプレイしたときに、どのような感情になるか。これはきっと、一人一人が良くも悪くも色々な気持ちを抱くだろう。そんな感想を覚えたゲームでした。



あっさりしたゲーム性

ゲーム性としてはかなりあっさりしています。

ときおり表示される、感情をあらわる円を長押しするだけ。出現する円にはそれぞれ意味があり、会話に対する返答をどのような感情の返事で行うのか選択します。とはいえ、その感情も「怒り」や「喜び」など単一的な感情ではなく、もっと曖昧な「激しさ」「ポジティブ」的な複合的な選択なので、あまり選択したという感覚にはなりにくいかもしれません。

また、返答内容(返事のベクトル)が変わるというより、その言い方や態度が変わるという感じ…と思われるので、それほど意味のある選択ではなく、ゲーム性、インタラクティブ性を加えるためのものなのかな…と思います。

加えて、簡易ですがピーターを操作してアクションを起こしたり、物を調べたりするということも出来るので、ただ読むだけ・聞くだけのゲームでは無いですね。

ただ、いわゆるパルクールとかみたいなアクション性ではなく本当に移動するだけなうえ、アイテムを保有する、などは無いので、もちろんこれもアクセント的な意味合いが強いのかな、と思います。一部、イベント的に特殊な操作もありますが、割合としては操作シーンより会話シーンのほうが、倍以上長いゲームとなっています。

車の運転もあります



演出に、惚れた

ゲーム性は薄めですが、しかし物語の演出はかなり凝っています。
キャラクター描写はPS1、PS2くらいのポリゴン感ですが、非常によく動くのです。

動くというか、感情の細かな変化を的確に動作で表現しているのが素晴らしく。例えば『As Dusk Falls』はイラスト調のビジュアル+ボイスで感情を表現していましたが、こちらは動作+ボイスで表現しています。表情はあまり見えないものの、この動きが本当に人間らしく、よくできていました。

ボイス面についてですが、steamストアページから引用すると、下記のような役者さんを採用されているということです。
(私はほとんど映画を見ておらず、詳しくないためその凄さがわからず…ですが、映画に詳しい方には刺さる方々なのでしょうか。ただ、わからずとも私としては「面白い」というより、「聞いてて気持ちいい」ボイスであったな、というのが率直な印象でした。ちなみに、翻訳字幕は完璧です。)

BAFTA受賞経験のあるState of Playによるこのゲームは、美しいビジュアルと繊細な物語が展開する映画的な画面、そして、グウィリム・リー(「ボヘミアン・ラプソディ」)、オリビア・ヴィナル(「ウーマン・イン・ホワイト」)、リチャード・グールディング(「ザ・クラウン」)、アントン・レッサー(「チェルノブイリ」)、マイケル・フォックス(「ダウントン・アビー」)の役者陣が作品の質をさらに高めます。

South of the Circle Steamストアページより


そして、何より素晴らしいのが場面転換の演出。
「吹雪の中を歩いていたシーンだと思っていたら、駅を歩いていたシーンへと移行」したり、「機械が電気を発して慌てて手を離したシーンが、そのまま熱いやかんに触れてしまって思わず手を離したシーンへと移行」したり…。ピーターの「同じ動き」を通して、別の場面への転換が行われました。この凝り方には驚嘆、感動、とにかく唸りました。

本当にスムーズな場面転換にびっくりするというか、一気に引き込まれるのです。よくありがちな「別の場面に変わってキリがいいからゲームをやめよう」という意識にならないんですよね。ついつい続けてしまう。非常に見事でした。例として、下記のツイートの動画をご覧ください。こういう演出が、盛りだくさんなのです。びっくりします。



心震える音楽はベストゲームミュージック候補

このゲームの魅力として忘れてはいけないのが、音楽。
本当に、2022年のベストゲームミュージック候補だと思います。「この曲がいい」というわけではないのですが、とにかく物語、シーンを盛り上げる。序盤も序盤、ピーターが吹雪の中を歩き、徐々に姿が見えなくなる…その自然の過酷さを音楽が盛り立てているシーンで既に、音楽に心を掴まれました。

以降も、雰囲気を醸し出す曲もありつつ、銅鑼がジャーンと鳴ってシーンを盛り上げるような特徴的な音楽もあり、かなり存在感あるBGMでした。個人的に、曲単体としてクオリティの高いゲーム音楽も好きですが、こういう、BGMとしての100点の役割をする音楽も大好きなので、プレイしていて夢中になりました。



終わりに

さて、様々な素晴らしい要素から構成された本作。
おそらくはこのゲーム、エンディングについてどのように判断するかでかなり評価が分かれるのではないかな…と思います。

4時間弱で終わるゲームであったこともあり、物語について細かい説明がある、というよりは、必要最低限+αくらいの説明なので、ん?と思うところが無いわけではありません。特にピーターとクララの関係も、もう少し説明してくれても…と思うシーンもありました。その結果、エンディングをどう捉えるかは人それぞれになるのかなと感じます。

または、あえてこのようなラスト、エンディングにしたからこそ、想像の余地を残すようにしたのかもしれません。(おそらく違うと思うのですがマルチエンディングだったらすみません)

私自身、このエンディングの捉え方で、そこまで積み重なってきたクオリティの高い物語が、さらに完成されたものになるか、積み重なったものが崩れるか、まだ自分の中で決めかねています。
が、少なくともどう転んでも、大筋でこのゲームは素晴らしかったという印象は崩れないと思っています。

終盤からエンディングにかけての部分。世間にはどう評価されるのか、これから増えてくるであろうレビューを読むのが楽しみです。


冷戦の時代を舞台にした本作。
恥ずかしながら冷戦や南極条約などの知識が無く、このゲームで初めて知った事実、歴史もありました。

そしてそれはこの現代と何が違うのか…。ロシアのウクライナ侵攻が発生しており、国際的にも緊張が高まっている今。
正直、現在の国際情勢について、「今」進行している情報を得て、「今」発生している事象への判断を行うのが精一杯でしたが、しかしこのゲームを行うことで、改めて「今」は「過去」から繋がっていること、過去があるからこそ今があることを再認識しました。

ピーターとクララの関係のように、どのような出発点があり、どのような経過を経て、今に至ったのか。
今だけでなく、過去を学ばないといけないなと反省すると同時に、ひとつの事象でも、一方の視点だけで理解した気になってはいけないなと自身への戒めにもなる作品であったと思います。

真面目なことも書きましたが、『South of the Circle』。自分としての信念を問われるアドベンチャーゲームであり、そこに社会的地位と国際情勢が入り混じる作品で、新鮮で勉強になる、「面白い」そして「知識欲を刺激される」素晴らしい作品でした。


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