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書評 #80|恩讐の鎮魂曲

 どこまでも論理的。その舌鋒も鋭利な刃物のようだ。御子柴礼司。彼に相対する組織や人々は敵を討伐するかのごとく、法廷に関連したあらゆる場所で攻勢を仕掛ける。その憤怒や憎しみを時に受け流し、歯に衣着せぬ言葉で跳ね返していく姿は実に痛快だ。

 『恩讐の鎮魂曲』は中山七里の他作品と同様、作品という名の器にさまざまなテーマが含まれている。御子柴礼司本人が代弁する罪人の更生と贖罪。介護現場が抱える不条理。それらが織り成す複雑な人間模様が重厚な舞台を作り上げる。

 その舞台を闊歩する御子柴。ダークヒーロー。狡猾であり、自らが抱える負の歴史を依頼人と自分自身の便益のために活用することも厭わない。面白くすら感じている様子に不気味さを感じさせるが、その冷酷さもまた彼の特異な人格を際立たせる。原文通りだが、救われないことの過酷さと裁かれないことの苛烈さを理解した主人公。清濁併せ呑んだ彼の究極的な現実性がシリーズに揺るぎない筋を通している。

 明晰な頭脳は法のグレーゾーンを突く。冒頭で提示される緊急避難が自然かつ物語の壮大さを損なうことなく回収されることに作家としての作者の技量を思い知る。中山七里は読者を新しい世界へと運んでくれる。始まりから程なくして、力強い風に乗るような感覚をいつも味わう。


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