旅|カタール|1
サッカーが放つ引力によって、僕はカタールへと導かれた。四年前にかかった魔法が解けていなかったとも言えるし、そもそも、その魔法は解けるようなものではなかったのかもしれない。ドイツ。スペイン。組み合わせ抽選会で決まりゆく日本代表の未来に、自分のそれも重ね合わせたかった。傍観していたワールドカップが日常の目標へと変貌を遂げる。
彼方へと広がる砂漠。屹立する近代的なビル群。異国情緒に満ちたカタールの風景を頭に描いた。連日世界中のサッカーを愛する者たちと競ってチケットを手に入れた。初めて訪れる中東の息吹は期待と不安を胸の上に流す。機窓に映る無限とも思える空や雲、大地。それらは美しくも、僕の胸に少なくはないとげを刺す。それは僕が家族と離れることの象徴だからだ。
しかし、僕はカタールへと向かった。ワールドカップだけでしか感じることのできない感情を求めて。未知の国への好奇心に駆られて。サッカーは過去にも僕を世界中へと運んでくれた。知らないことを知った。自分が身を置く世界がとてつもなく大きいことを実感した。不自由な自由。それは自分が知らない自分を映してくれる鏡でもある。その一連の所作を「サッカーへの恩返し」と呼ぶのは、自分にとってのみ都合がよい表現なのかもしれない。
それでも、カタールは僕を”Welcome”と出迎えてくれた。ドーハの町外れにある、ジェット音が頭上から降り注ぐ華奢な一室でそんな思いを巡らせた。