史上最長の春休み
最後に学校に行ったのは1月30日。午前中にテストだけ受けに自転車を飛ばすと45分後にはまた自転車に跨っていた。途中でラーメン屋に立ち寄り、ニンニククラッシャーでニンニクを1片潰して学期末の解放感を味わっていた。
ニンニクは1日に生なら1片加熱しても3片までに押さえた方が良いらしい。ニンニククラッシャー?ガーリッククラッシャー?ニンニク絞り器?
2月上旬はまず1日にTOHOシネマズ新宿でナイブズアウト、5日に新文芸坐で見えない目撃者とアルキメデスの大戦、6日に早稲田松竹でアラジンとライオンキング、9日にサタンタンゴを鑑賞した。サタンタンゴはnoteを書いたが他の作品も全て面白かったので公式サイトのリンクを貼ってはみたが、作品ごとのサイトは作らないディズニーはともかく、日本の映画公式サイトはどうしてまず予告編動画の右上の×を押さなければいけない仕様なのか。例外は三池崇史の初恋だけだった。これは3月に鑑賞した。
バイトもしたし、面接も受けたし、東京都現代美術館にも行ったし、いつも馬鹿馬鹿しい演劇を見せてくれる劇団、シベリア少女鉄道の新作『ビギンズリターンズアンドライジングフォーエヴァー』を観劇したのも2月上旬だ。この頃は春休みの開放感に浮かれるばかりでアクティブに過ごしていたが、こんな生活が失われることになろうとは全く予想できていなかった。
日本時間2月10日、映画史が大きく変わった。
午前10時にアカデミー賞授賞式が始まる予定だったが9時ごろにはもうレッドカーペットの模様が伝わってくる。監督賞ノミネートが全員男性だったのだがプレゼンターとして出席したナタリーポートマンがDiorのドレスに今回惜しくもノミネートされなかった女性監督の名前を縫い付けて出席するなど興味深いニュースが続々届いてくる。
『若草物語』のグレタガーウィグと『フェアウェル』のルルワンはノミネートされても良さそうだと思ったんだけど。ジョーカーのトッドフィリップス入るくらいなら。ちなみにこの2作とも3月日本公開予定が延期され公開日の目処が立っていない。若草物語に関しては変な邦題がつけられた。
ジャネールモネイによるオープニングパフォーマンスが今回全くノミネートされなかったミッドサマーをフィーチャーしたのが良かった。アート系とホラー系はスルーされやすい。その典型みたいな作品がミッドサマーだよな。
まず最初に脚本賞の発表、いきなりパラサイト。アジア映画初の快挙だ。
国際映画賞ではパラサイトキャストにスタンディングオベーション、この時点でクライマックスのような熱気に会場が満たされ、ここまで歓迎されるなら作品賞も夢じゃないのではという期待感がひしひしと伝わってくる。
そのまま監督賞もポンジュノが獲ってしまう。スパイクリーからオスカー像を受け取り“最も個人的なことが最もクリエイティブなことだ”というスコセッシの言葉を彼の目の前で引用し会場全体でスコセッシに拍手を送り、私が海外で知られるずっと前から年間ベストに私の作品を入れてくれたタランティーノにも感謝を、でスピーチを締める。歴史的瞬間に立ち会うべき役者は揃っている。スパイクリーもスコセッシもタランティーノも非ハリウッド非アカデミー賞の監督なのに。そして遂に、パラサイト、作品賞でその名前が呼ばれてしまった。いくつもの歴史的快挙、スターたちがみんな信じられないという表情を一瞬見せたり大喜びしたりして見たことのない大団円。
関係者でもなんでもないし韓国に行ったこともないけれど、非英語話者、反ハリウッド映画愛好者、しかしアメリカ映画大好きな人間にとって、そして何よりアジア人として黄色人種として(こんな時だけそんな括り持ち出さなくてもと思うかもしれないけれどアメリカ主体の映画界では確実にこの括りは存在してきました)こんなに嬉しいことはない。映画界の明るい未来を夢見つつUber Eatsで大量の韓国料理を頼み、泣きながら腹一杯まで食べると韓国文学を読もうとチョンセランの『フィフティピープル』を読み、Netflixでポンジュノ作品『オクジャ』を見てその日は寝た。これが2月10日。
2月中旬も同じようにアクティブに過ごした。面接に行き、ゴッドタンのマジ歌ライブ in さいたまスーパーアリーナで大いに笑い、Night Tempoのリリースパーティ in 東京ドームローラースケートアリーナで大いに踊った。下旬はバイトに励んだ。就活が本格化する前に生活費を稼がねばとの思いで。
3月1日の東京マラソンは一般参加の枠は中止になったが、プロのランナーが東京オリンピックの選考のために東京を走った。遠藤には多くの観戦者が集まりゴール地点に近い僕のバイト先も賑わって忙しかったのを覚えている。観戦者と感染者は同音異義語だと気づいたが特にそれ以上のことはない。
3月はエントリーシートの締め切りに追われつつもワイルドスピードシリーズ全作見たりしているのでそこまで追われていなかったのだろう。バイト先の閉店時間が1時間早くなり説明会は中止になりWebで行われるようになる。エントリーシート提出後にその会社のWebセミナーに参加しメモを取りつつ熱心に聞いていると、正にその会社からお悔やみメールが届き全てが嫌になったこともあった。テストセンターには出向いてテストせねばならなかったが基本は自宅に留まっていた。持病があるので周囲よりウイルスを怖がり、公開延期が相次ぐ中無事公開してくれたハーレイクインなどは観て応援したかったが映画館に行くには電車に乗る必要があり諦めてしまった。3月末にはバイト先も土日休業になり、4月上旬に緊急事態宣言が出るとずっと休業状態で再開が見込めなくなっている。緊急事態が出る直前に友達の家に滑り込み丸1日飽きるまでPS4でDead by Daylightをした日もあったが、それ以降はスーパーと郵便局以外では一切外出していない。いだてん後のクドカン新作である大人計画の舞台も6月のオザケンのライブもいろいろな小演劇もトークショーも講演も白紙になり、NetflixとAmazonとAppleTV+に加えU-NEXTにも加入してしまっている。就活はエントリーが落ち着くも40社くらいエントリーして30社くらい落ちて内定とかいい所までいったのは0、残っているのはエントリーしたばかりのとこだけになっている。入りたい企業が新卒募集していないことがとても多く、もしこの騒ぎがなければ若干名募集してくれたのかなとか感じてしまう。それとも単に斜陽産業だからなのか。
就職の望みが薄くなってきたところで来週からやっと大学の新学期が始まる。就職したいわけではなくとにかく学業がしたくて大学に来たので、講義を拝聴できるのが楽しみだ。しかし完全オンラインで行われるため潜ることはできず、ゼミや演習は弊害が大きく学習体験が損なわれないか心配だ。
気づくと3ヶ月以上にも及ぶ春休みで、家から出られず楽しみは失われ苦難の時期に突入している。しかし楽しいこともあった。振り返ると最大の喜びはなんてったってアカデミー賞だがアニメだと『映像研には手を出すな!』ドラマだと『ベターコールソウル シーズン5』映画だと『アンカットダイヤモンド』など驚異的なクリエイテヴィティに触れることもできた。
今はただ、コロナウイルスとうまく付き合っていける社会システムの構築(≒収束)と政権交代とDisney+の日本上陸を心待ちにしている。本日5月4日はMay the 4th(=Force)be with you でスターウォーズの日なのは地球という惑星にお住まいの方なら常識だと思うが、スターウォーズ人気が高い日本にはマンダロリアンのシーズン2が始まる10月のタイミングでの上陸が最適。それまで必死に、しかし文化的に生き延びようと思う。
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