花粉の功名
スギ花粉の最盛期である。
私のX(旧Twitter)のタイムラインでは
予報士たちがアップした
〝花粉光冠〟で溢れかえっている。
この現象を簡単に言うと
空気中に漂う大量の花粉に太陽の光が当たってできる虹のような輪ことである。
飛べば飛ぶほど見られる確率が上がる。
花粉症民からすると、悪魔のサークルだ。
今シーズンは関東・中国地方でよく撮られている印象で、私も負けずと何度か試みてみたが、今のところ松山市では1度も撮影できていない。
とはいえ小学1年生の頃から23年間花粉症に悩まされているプロ花粉症の私からすれば花粉なんて
飛べば、変わらん。
鼻の穴が小さくなるわけでもあるまいし
飛ぶ量が多かろうが少なかろうが
どのみち発症してしまうのだ。
花粉症じゃない人にとっては
春は文句のつけようがない季節だろう。
冬が終わり、光の春を経て、
音の春に耳を傾けながら、
最終的にはきょうのようなポカポカ陽気に。
一方、花粉症の民にとっては
厳しい冬を乗り越えてきたのにも関わらず
その冷え切ったボロボロの身体に鞭を打つ春。
季節のパワハラである。
嘆かわしい。酷い仕打ちである。
今や花粉症は国民病とも言われてきている。
環境省のまとめによると、
3人に1人はスギ花粉症だと推定されている。
国民共通の敵になりつつある花粉(主にスギ)にどうにかならんのかと頭を抱えている人が大多数を占める総人口1億2399万人(2024年2月1日現在)の日本で、おそらく唯一無二であろう、花粉に頭が下がる人間がいる。
そう、私だ。
私は花粉症だったからこそ
過去に大きな病気を発見することができた稀有な存在である。
忘れもしない就職活動を始めた大学4年の春
特にその年は症状がひどくて、
いつもならそうは簡単に病院に行くことはない、むしろ行くことでプロとしての自覚を失ってしまうとばかりに頑なに診察を受けないプロ花粉症の私でもさすがに観念してしまうほど目が痒くて、真っ赤に腫れあがった。
これでは特に行くつもりもない企業の面接を受けるにしても酷い面構えだ。
大人しく眼科に向かった。
テキトーに目に光を当ててそれっぽく診察してもらって、目薬をもらってすぐに帰る。
これが院の自動ドアの前に立つ0.0003秒で思い描いた未来予想図。
ところが、そういうわけにはいかなかった。
テキトーに光当てていると思っていたその診察がやけに長い。
あれ?ちゃんと診られている?
別にヤブ医者とは思っていないけれどなんか頼んないおっちゃんだけどここに来るしか選択肢がないと思ってお世話になっていた眼科医の顔がだんだんいかめしくないっていく。
そして問われる。
「最近喧嘩した?」
え?
どゆこと?
貴殿、そのセリフ、誰に向かって言ってる?
生まれてこの方誰とも殴り合ったことがない、
生涯戦歴0で墓に潜りたい私に向かって何を?
もちろん、したことはないし、
今後もすることはないとすぐに返答した。
いつも声がか細い眼科医が急に歯切れ良く言った。
「網膜が剥がれてるかもしれない」
「花粉症のことは一旦置いといて、すぐに大きい病院で精密検査を受けてきてください」
理解ができなかった。
ゴリゴリの文系で育った私にも猿でもわかるくらいその病気について丁寧に教えてくださいと言わんばかりの顔で眼科医を見つめたらすぐに察してくれた。
要するに目の内側にある網膜という膜が剥がれて視力が低下してしまう、最悪の場合失明するおそれがある病気になってしまっていたのだ。
まさかだった。
危うく失明しかけた。
という恐怖と共に、
今発覚して良かったという安堵もうまれた。
そして、再び問われる。
過去に目をぶつけたことはないか?と。
全然思い出せない。
そもそもそんな強烈な出来事があったら忘れるはずが…
あ、思い出した。
あった。あったわ。
小学5年生の頃に河川敷で野球をしていた時のこと。
確かその日の前日の試合、ピッチャーを任されていた私は考えられないほど四死球を重ねて試合をぶっ潰してしまった。もちろん負け投手に。
その結果、
ピッチャーをクビにされ、外野に回された。
子供が受けるには十分すぎるショックで、
本当に野球が嫌いになりそうだった。
不貞腐れてレフトの練習をテキトーにこなしていた。
外野なんかテキトーにしててもできんねん。くそ。
そう舐め腐った態度が極まったときにコーチが打った高々と上がった打球は、真っ昼間の南中高度にある太陽と完全に重なり私は打球を見失った。
どこいった?と思った時には
私の左目と鼻の間のあたりにボールが直撃していた。
実はそこから記憶がない。
目を覚ますと活発に練習を終えたみんながクールダウンをしていた。
どうやら気絶していたらしい。
事故現場を目撃した関係者一同は大層焦って私をせっせとグラウンド外に運んでくれたらしい。
気絶した私を1番近くで見ていたセンターを守っていた友人が、噴水みたいに血がちゅん!って噴き出てたで!と爆笑された。
もちろん大丈夫?と言われたけど
彼は第一声を放つ前から笑っていた。
良き友人を持ったものである。
そんなことがあったと眼科医に伝えたところ、
もしかしたらそれかもしれないねと納得されたところでとりあえず家に帰された。
若いうちになる場合は何年も前の出来事でも何か大きな衝撃があったことによって起因することが多い病気らしい。
本当にそうなのかは分かってないけれども。
その後、母の繋がりで紹介された日本でも指折りのスキルを持つ眼科医の手術を受けて、無事に成功した。
おかげさまで網膜剥離は治った。
ただし再発のおそれがあるので、
念のため毎年検診を受けている。
「怪我の功名」とはよく言ったものだが、
「花粉の功名」もあるらしい。
みな、ここはテストに出るぞ。
よーく覚えておいていただきたい。
ちなみにより花粉最盛期の時に書こうと思って書き溜めていたこの記事。
めんどくさがりな性格が功を奏してあれよあれよと月日が流れてしまい来週にはスギ花粉のピークは過ぎてしまう。
とはいえ今度はヒノキ花粉にバトンタッチだけど。
この時間も花粉症に悩んでいる人は多いと思います。
ぜひこんなしょーもない、誇らしげにプロ花粉症などと名乗る異端気象予報士を反面教師にしていただき、すぐに病院に行っていただきたい。
もしかしたら
「それは置いといて…」と、
別の何かが見つかるかもしれません。
ご安全に🙏