篠山川からの贈り物【古生物シリーズvol.1】
「アッチに流れてたハズが、ソッチに流れた:篠山川の意外な歴史part2」でお話ししたように、自然災害の一方で、恩恵を受けることもあります。
武庫川の堰き止め(原因は直下型地震?)→篠山盆地湖沼化→篠山川の逆流
によって何が起こったのか?
2006年8月7日
この日、丹波市在住の2人の男性があるものを発見します。
この2人はアマチュアの地質愛好家で丹波市東部の川代渓谷に来ていました。ここは白亜紀の地層が見られる場所です。
もしかしたら化石の発掘目的で訪れたのかもしれません。
そして見つけたあるものとは、骨の化石!
2人ともこの地層の時代を知ってたのでしょう。
「もしかして恐竜の骨では?」と博物館に持ち込んだのが始まりでした。
その博物館とは、兵庫県立「人と自然の博物館」です。
https://www.hitohaku.jp/
発見場所はコチラ
スーパー地形(カシミール3D)より抜粋
なおカシミール3Dは元データとして国土地理院の「電子国土」を使っているそうです(出典:国土地理院ウェブサイト)
※トップ画像や以下の地形・地図画像すべて引用もとは同じです。
もっとアップにしてみます。
JR福知山線の下滝駅で降りて徒歩20分ほどです。
この場所はフィールドミュージアムという博物館になっており、恐竜が発掘される地層を見学できるようです。是非、行ってみたい!!
丹波竜はどんな恐竜?
専門家の鑑定により、持ち込まれた化石は確かに恐竜の骨でした。
その後、大規模な発掘調査が行われ、多数の骨が発見されます。また他の恐竜の歯の化石なども見つかっています。
分析の結果、丹波竜は「竜脚類」というグループの恐竜で、有名どころで言えばブロントサウルスの仲間です。首が長くて大きな草食恐竜ですね。
正式な学名は「タンバティタニス・アミキティアエ」だそうです。
詳しくはコチラをどうぞ!
https://www.tambaryu.com/about/index.html
学術論文に化石の写真がありましたので、引用します。
三枝ほか(2008)より
どんな地層から採れたのか?
丹波竜が発掘された地層は、白亜紀の中でも古い時代の篠山層群(ささやまそうぐん)の下部層と言う地層です。
地層は広い範囲に分布しているので、同じ特徴を持つ同じ時代の地層は、その代表的な地層が見られる場所の名前を付けます。
そうです。恐竜化石が見つかった場所は丹波市ですが、地層のメインは丹波篠山市にあるようです。
では見てみましょう。
5万分の1地質図幅「篠山」:地質調査所 より
赤丸が発掘場所。この濃いめの緑色と同じ色の地層は丹波市だけじゃなく丹波篠山市にも広く分布していますね。
ちなみに丹波竜発掘箇所周辺は、丹波市の条例によって「勝手に発掘しちゃダメ」と決められてます。
どうしてもチャレンジしたい人は条例を詳しく調べて、禁止されていない場所で発掘するなど細心の注意を払って下さい。
ただし恐竜の化石が見つかる地層は厚さでわずか2.5mの範囲内だそうです。地質学の専門的知識がないと、離れた場所の同じ地層を探すのはまず不可能でしょう。それに山や谷を歩くのは危険ですのでお勧めできません。
「それでも発掘体験してみたい!」と言う人に朗報です。
上で紹介した人と自然の博物館では発掘ボランティアを募集しています。
今年は9月~10月にあるようです!詳しくはコチラ↓
https://www.hitohaku.jp/infomation/news/rock-research-v14jul.html
いつ、どんな場所だったのか?
篠山層群下部層の最下部の凝灰岩で年代測定がされており、時代は約1億3800万年前~1億3400万年前(誤差±900万年~2200万年)ですので、日本はまだユーラシア大陸の一部だった時代です。
地層を詳しく分析した結果、河川に近い湿地のような場所で、雨季と乾季の差がはっきりした温暖な気候だったと考えられています。
時代に関しては誤差も大きく、恐竜の化石が入っていた地層そのもののデータではないので、今後研究が進み、色々と解明されて欲しいですね。
論文の中で研究者は「韓国などの地層とも比較・検討する必要がある」と言ってましたのでスケールの大きな話ですね。
さて、頭を現代に戻し、発掘箇所の地形を見てみましょう。
奇しくも現代でも川の近く。それにしても川は削られて輪郭がクッキリしてます。場所によっては平地と10mほどの落差があり、これは川の水に削られた結果です。おかげで恐竜の化石が入っている地層が地上に出ることになったのです。
そしてここは大昔は篠山川ではありませんでした。
古篠山湖の水があふれて流れてくる前は小さな谷だったと思われます。
水が地面を削る力は水量が多ければ大きくなります。
つまり約2万5千年前に篠山川が武庫川に流れ続けていれば、この場所はここまで削られることなく丹波竜は見つかっていなかったことでしょう!
大昔の災害や環境変動が意外なかたちで未来に影響を及ぼすのですね♪
お読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
栗本史雄・松浦浩久・吉川敏之(1993)篠山地域の地質.地域地質研究報告(5 万分の1 地質図幅),地質調査所,93 p.
三枝春生・田中里志・池田忠広・松原尚志・古谷 裕・半田久美子(2008) 下部白亜系篠山層群からの竜脚類およびその他脊椎動物化石の産出.Journal of Fossil Research, Vol.41(1),2-12
三枝春生・田中里志・池田忠広(2010) 兵庫県丹波市の下部白亜系篠山層群産の恐竜類の歯に関する予察的観察および丹波竜脚類の含気骨化に関する追記.Journal of Fossil Research, Vol.42(2),52-65