
ピーナッツ味噌に宿りし祖母・信ばぁのおいしいレシピ
ああー!失敗した!!
夫に向かって声を上げる。
なんで私が作ると、信ばぁみたいにカリッとならないんだろう?
火力が違うんかな?うーん…
油を入れなかったからじゃないの?と夫が指摘。
そうかも…しれない…何でわかるの?
天の声でも聞いたの?
田舎っぽいビジュアルと、お味噌の何とも言えない香ばしい匂いに、
今はお空にいる信ばぁと作った「ピーナッツ味噌」の思い出がよみがえる。
ピーナッツ味噌ヒストリー〜
信(のぶ)ばぁの家に泊まると、
翌朝の7時頃にはピーナッツの香りで目覚める。
冬は日本家屋ゆえのギンギンな寒さ、起きたくても起きられない、
でも台所からいい匂いがしてくる。
これは思い切って居間のこたつにお引越しだ!
そんな葛藤を超えて起き抜ける。
こたつがあったかいときは天国な気分なのだけれど、
電源が入っていない時は冷たーいこたつ布団にがっかりするのだった。
そんなこんなで「ほら、できたよ!」と腰が曲がった信ばぁが台所から出てくる。
起きたての私の目の前に「どん!」と山盛りのピーナッツ味噌が置かれるのだった。
出来立てほかほかのピーナッツ味噌は、砂糖と味噌が絡んだ衣が熱を持っていて、口の中をヤケドしそうなくらい熱い。
いっぱいふーふーして口の中に入れると、カリッといい音を鳴らす。
ピーナッツ本来の香ばしい香りが鼻を抜けていく。
あぁ、信ばぁの味だなぁ。
うまいなぁ。
そうしていると味噌汁とご飯が出てきて朝食が始まる。
ピーナッツは前菜なのだ。
ピーナッツ味噌を作ってみる
小学2年生くらいになると料理を覚え始めた。
ピーナッツ味噌を作ってみたくて、冬休みに信ばぁと一緒に作ってみることに。
まず、温めたフライパンに油を大さじ1ほど入れて、殻剥きしたピーナツを入れる。(薄皮の状態)
菜箸でさらっさらっと炒る。
信ばぁの腰が曲がったフォームがピーナッツを炒るのになんだかちょうどいい感じ。
何て言うか、前に重心がかかっている方がうまく炒れるのよね。
はたから見ると、ピーナッツに息吹き込んでいる感じ。
とにかくピーナッツを炒る信ばぁの目はほっこり優しくて、ほっぺはきゅっと上がっている。
焦げ目がついてくると、ピーナッツがパチンッパチンと弾ける。それはもう結構大きな音で。元気のいいピーナッツはフライパンから飛び出していくの。
その音が止んだ頃が炒り終わりの合図。
味噌・砂糖・みりん大さじ2ほどを目分量で入れてピーナッツに絡ませる。
一緒に作ったピーナッツ味噌は、信ばぁが作った方が美味しかったけれど、甘くてしょっぱくて、いいお味だった。
この出来事をレシピにして小学校の課題として出すと、
「先生も作ってみたよ!美味しかった!」と褒められたのがいい思い出だ。
お空の信ばぁ
信ばぁのピーナッツ味噌を最後に食べたのはいつ頃だっただろうか。
あれから信ばぁは持病が悪化し、大腿骨骨折もして台所に立てなくなってしまった。
持病と副作用で骨は脆くなっていたのだ。
入院しても信ばぁはしぶとく生きて自宅に戻ってきた。
元から通っていたデイサービスに復帰、古株としてみんなを楽しませ、帰宅後にはじぃに十までまで報告するので「うるさい」と言われるほど。
まだまだ生きてくれるだろうと思っていたら、ぽっくり逝ってしまった。
命日が近くなると毎年作る、信ばぁの残してくれた「ピーナッツ味噌」。
ピーナッツを炒る菜箸に、信ばぁの思い出をのせて、今年も作る。
ほら、できたよ。
召し上がれ。