【SS】最優先事項
「そんなことしてたら友達いなくなっちゃうよ?」
綾郗に投げかけられた言葉に、僕のライフゲージが大きく削られた。
ここ数年は同窓会や友達との集まりが減ってしまい、友達の飲みにいくことはほとんどなかった。
そんな僕に幼馴染から“年末に久しぶりに集まろうよ”と誘いの連絡がきたけど、正直あまり行く気になれなかった。
その理由の1つに、今僕の隣にいる人の存在があった。
飲み会の誘いを理ろうとしていることが綾郗にバレてしまったのは僕が悪い。
それでも、あんな直球な言葉を投げかけないでくれよ。
言われなくたってわかってる。
大体、綾郗にそんなこと言う筋合いはないじゃないか、いくら僕の妻だからって。
心の中で呟いた言葉を発すると、年末年始は綾郗の機嫌をとることに尽力を尽くさなければならない未来が目に見える。
「綾郗こそ、そんなキツいこと言ってると友達いなくなるぞ。」
何か言い返したい。
そう思い発した言葉は明らかに失敗だった。
さっきまで心配そうにしていた綾郗の表情が曇っていくのが、見なくてもわかる。
隣に座っている距離は変わらないのに、心の距離が開いていくようだった。
違う、違うんだよ。
綾郗を傷つけたいわけじゃないんだ。
ただ年末年始くらいゆっくり過ごしたいじゃないか。
綾郗と2人だけで過ごせる初めての年末年始何だから。
12月の休みは忙しくて出掛けられなかったから、綾郗が行きたいって言ってた少し遠いショッピングモールまでドライブして、渋滞にハマったら車の中でじゃがりこを食べながら他愛もない話をして、いつもは買わないような少しお高いお肉でも買ってさ。帰りが少し遅くなっても明日も休みだから、こたつに潜って2人でゆっくりご飯を食べたいだけなんだ。
「……お正月は一緒にいたい。」
口に出すつもりはなかった言葉が、僕の口からこぼれ落ちる。
綾郗に届くか届かないか、ぎりぎりの声量だった。
綾郗の顔がこちらを見ているのがわかった。
しまった。
聞こえただろうか。
30歳にもなってこんな恥ずかしいこと、聞かれたらたまらない。
耳の辺りが熱を帯びる。
お願いだから、こんなみっともない顔を見ないで欲しい。
「素直にそう言えばいいのに。」
綾郗の両腕が僕を包み込む。
「お正月は2人でゆっくり過ごそうね。」
僕の背中を小さな手が優しく撫でる。
大切な人と過ごす、2人だけのお正月。
来年もまたこの笑顔を守っていたいだなんて言葉は死んでも言わないけど、その代わりに僕は君の背中をきゅっと抱き寄せた。