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『僕と私の殺人日記』 その40
※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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ぼくは家に戻ることにした。
道を歩くと田んぼに電柱が立っていた。当たり前に思っていたけど、それがなんだか不思議に感じた。自然と人工物の共存。自然を壊しているようにも、支えているようにも見える。でも、田んぼも人工的につくったものだから、 人に作られたものも自然の一部なのだと気づかされた。
うちに帰るまでの間、ぼくは『命』について考えた。
リナちゃんは、命とは平等で、すべての生き物には命が一つずつあるのだと考えていた。
外見に関係なく、それ以上でも、それ以下でもないと。 ぼくは、命とは確かに一つしかないものだけど、大きさが違うと思っている。
その大きさに合わせて、殺してもいい命と殺してはいけない命に分かれる。 命の大きさは見た目と釣り合っていて、大きいほど大切ものだ。
蚊や蟻などの小さな命 が死んでもだれも悲しまないし、殺しても責められない。でも、犬や猫が死ぬと悲しい。 殺すと虐待になる。そんなものだと思っていた。
どこかで殺したらいけないラインのようなものがあるのだと。
なのに、鹿やイノシシが死んでも特に悲しまない。身体は犬や猫より大きいのに。
なぜだろう。どうしてだろう。
人間が差別する、命の価値を決める境界線はどこだろう。
ぼくの身体はリナちゃんの身体だ。小学四年生の知識と学力しか持ち合わせていないぼくには、命の価値なんて難しすぎる問題だった。
それでも、ぼくなりの答えを見つけた。
それと同時に、恐ろしく静かな我が家に着いた。
寝室には、おかあさんとおとうさんが眠っていた。永遠に目覚めることはない。二人とも目を開けたままだったので、そっと瞼を閉じてあげた。 感謝の言葉を言って、良太の部屋に向かった。
良太は布団上で丸まっていた。寒がりだから取れた布団をかぶせてやった。勉強机の方に行くと、首だけになった良太が気持ちよさそうにすやすや寝ていた。顔が夕日の光に当たって、きれいだった。
頭を撫でてお別れした。
みんな、一緒に暮らしてくれてありがとう。
最後の別れをするために、ぼくは自分の部屋に入った。そこはリナちゃんの部屋でもある。目に焼き付けた後、ベッドの上に座る。 目を閉じて、心の裏側にいるリナちゃんに想いを伝えた。
ぼくの最初の友だち。ぼくの一番の友だち。リナちゃんへ。
君はとても元気で勇敢だったね。自分より大きな男子にも怯まず、立ち向かった。ぼくがピンチになったら、助けてくれた。 リナちゃんがやったことは許されることじゃないけど、ぼくも一緒に罰を受けるから安 心してね。
今、すごく怒ってるかな。会話ができないけど多分そんな感じがする。 リナちゃんはもうぼくと入れ替わるとは、思ってなかったんじゃない? でも、違うんだ。やっとわかった。なんで入れ替わりが起こったり、起こらなかったり するのか。
生き物の死に慣れたからじゃなかったんだ。 平等な命と差別される命。この二つの違いが入れ替わりに関係している。 その違いは『生きてほしい』と思う気持ちだったんだよ。
ぼくが生きてほしいって思うと、まるで何かが殺す邪魔をさせないように、入れ替われなくなる。 死んでもいいってぼくが思えば、入れ替われる。ぼくは蚊や蛙が死んでも何とも思わない。
殺せば入れ替わる。
トンネル騒ぎの前にリナちゃんは人を殺した。あの時も入れ替わった。死んでほしくないとは思っていた。でも、心の底では仕方ないとも思っていた。 自分や家族さえ死ななければいいと、どこか思っていた。
今も世界のだれかが死んでいる。わざわざそんなところまで悲しんでいられない。
ぼくは卑怯だ。リナちゃんには、命を大切にしてほしいと言っておきながら、自分たちの命を優先していた。
だから、入れ替わった。 初めて入れ替われなくなった時、ぼくは本気で人を助けたいと思った。 権太くんとノブ夫くんのどちらか生き残った方に、『生きてほしい』と思ったんだ。
それが逆効果だった。二人とも死んだ方がいいと思えば入れ替われたのに。
家族が殺された時から、もっと人に死んでほしくないと心の底で思えるようになって、 ぼくはさらに出てくることができなくなった。
もし、リナちゃんが途中で蚊や蛙を殺していれば、ぼくが出てこられたんだ。でも、人だけを殺し続けたから無理だった。
逆に、ぼくが生き物を殺すと必ず、入れ替わる。リナちゃんは命を平等に殺したいと思っているから、『生きてほしい』ってならないでしょ?
すると、殺す邪魔にならないから、 入れ替われる。 まるでナイフが意思を持っているみたいだ。人を殺させるために。 実をいうと、このことに気づいたのは、今さっきなんだ。
ユイカちゃんのあの手紙がヒントになって、やっとわかった。
『生きてほしいと思うほど、人が死んじゃうなんて矛盾しているよね』
その言葉で気づかされた。 遅すぎるよね。みんな死んじゃった後に気づくなんて。
続く…