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再会するならこの場所で
彼女の文字は、彼女が描く水彩画のように澄んでいる。
毎年届く年賀状を密かに楽しみにしている。近年印象深かったのは、青や緑、紫がかった山並みが描かれた一枚。文字は、絵に寄り添うような繊細さを帯びている。
そんな彼女と久しぶりに会う場所として決めたのが、黒澤文庫だった。
「本と珈琲とインクの匂い」は、なんとなく思い出を呼び起こしてくれそうな気がして。
それに何より、前回食べたいと思ったガレットにも挑戦したかった。
手書きのメニューを一瞥し、私は即決。
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実は詳しく知らなかったが、ガレットは、西海岸ブルターニュ地方の郷土料理で主食なのだという。そば粉を使った生地をクレープのように焼き、魚介類や野菜を載せたもの。クレープか、イメージしやすい。さすが黒澤文庫の手書きメニュー解説。
分かりやすいものは優しい。優しいものはおいしい。
ということで、注文したガレットはハムと卵とチーズが合い、生地がもちもちとしていてボリューム満点。軽い気持ちでしっかり満足できた。
彼女は迷い迷った末にオーブン料理を選択。あつあつとろとろ。
おいしそうだ。よかった。
さて、前回は珈琲を注文した紅茶派の私だったが、今回は本来の自分を取り戻して紅茶に。もちろんアールグレイ。こちらも即決。飲みやすいダージリンも穏やかで好きだが、若干苦みを伴う深い味わいのアールグレイこそ紅茶の醍醐味(もちろん私基準である)だ。
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紅茶は、砂時計の砂が完全に落ちたら、謎の容器の上部取っ手を下へ押し出すものだという。確かに下の方に茶葉が見える。コーヒーポットのようなものだろうか。
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ちなみに彼女は最近珈琲を飲むようになったそうで、迷わず珈琲を選択。黒澤文庫では、珈琲は大倉陶園のカップで登場するようだ。深い藍色が珈琲を引き立てる。
ちなみに前回来店した時と同じ席が空いていたため、迷わず同じテーブルに着いている。店内は、前回よりも人が多いようだった。否、少しずつ人が増えてきていた。そんなに長く座っているだろうか、私たち。
今何時だろう。
そういえば入店してから何度か柱時計が鳴る音を耳にしている。
前回は流れる音楽に身を委ねていた気がするが、今回は音楽の気配がない。
久しぶりに会った彼女との会話が弾んでいるせいだろうか。
彼女とは昔、異国で知り合った。
帰国してからも何度か会った。
だから今日顔を見た彼女は、記憶の中と変わっていないように感じる。
「本当に久しぶりだよね、2~3年ぶり? まるで去年会ったみたいだけど」
と言葉にしてみると、彼女は笑顔で首を振った。
「もう10年以上になると思うよ」
そうだった、この店は時間の感覚を狂わせるのだ。
「じゃあまた」と、まるで明日会うかのような挨拶で店を出た。
![](https://assets.st-note.com/img/1731134476-GlxZDhbyoKjI516TYLtH7Nvr.jpg?width=1200)
そしてまた、年賀状を用意する季節がやってくる。彼女の文字にも会いたくなった。
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![佐藤ユンコ@ゑまふ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/33185812/profile_3e5154cf819335b58221ddfd896239b7.png?width=600&crop=1:1,smart)