職場の先輩とご飯を食べたお話
職場の先輩とわざわざプライベートでも会うことはほとんどない。だが、気心が知れた人は例外だ。
私の先輩のちーさんは、メガネをかけていて小柄だ。なんとなく小動物を思わせるが、好奇心旺盛で熱量の高い「二次元推しオタク」(因みに2.5次元にも進出をしている。)でもある。
私とちーさんは一時期同じ部署で仕事をしていて仲が良くなった。朗らかで話しかけやすい人なので、新人時代の私はよく助けてもらっていた。
ただ、どこか天然さを感じる人でもあり仲良くなるにつれて、ちーさんのことを「いじり」たくなる後輩の心的なものが芽生えていた。
ちーさんの写真フォルダは携帯ゲームに出てくる「推しキャラ」のスクショでいっぱいだ。私は度々カメラフォルダを覗き込んで、愛を込めて「オタクですね笑」と言っている。
ちーさんは中野に住んでおり、夫婦で美味しいものを食べることが趣味である。食の好みが合うのか、私はちーさんから教えてもらうお店を信頼している。連れて行ってくれるところがいつも美味しいのである。この頃、再生回数稼ぎの情報発信者が溢れているため、人からの紹介は貴重だとふと思う。
さて、今回は中野のイタリアンへ訪れた。
店内はコンクリート調のテーブルや壁でスタイリッシュ。オープンキッチンで広々としていた。私は少し早めにお店に着き、定員さんにテーブルかカウンターか聞かれ、カウンターを選んだ。
席に着くとお水を差し出される。野球少年のようなほぼ坊主に近い、塩顔の男性は腕に真新しいタトゥーを入れていた。そのタトゥーの周辺は少し赤みがあり、腫れていて、鮮やかな色だった。どうやら昨日入れたらしい。(後から別のお客さんとの会話を盗み聞いて知る)
ランチメニューはパスタとピザを選ぶことができて、ドリンクもついてくる。しかもピザはハーフハーフにもできるとのことで、私は前のめりになる。折角なので欲張りに色々食べたい。
ちーさんはまもなくやってきた。相変わらず明るくて朗らかだ。ちーさんは以前にもお店に来たことがあり、ここは魚で有名な居酒屋の系列店らしくて、他の系列店にも行ったことがあるんだよね。と、さまざまな情報を、椅子に座りながら一気に話す。
ちーさんと話し合い、ピザのハーフハーフ、イカとチーズのパスタを注文してシェアすることにした。
ドリンクは自家製のジンジャーエールを頼んだ。
新しいタトゥーを入れた、粗野な見た目だが丁寧な対応の例の店員さんが、薄いガラスのコップに自家製のシロップを入れ炭酸水が注ぐ。一口飲むと、私の知らない美味しさだった。もっと爽やかでほのかにシナモンの香りがして、暑い日本の夏にぴったりだった。
食事は、まず初めに新鮮な野菜のサラダがきた。ドレッシングはチーズが効いたクリーミーな味わい。大きく切られた野菜の歯応えとクリーミーなドレッシングが絡み合って美味しい。久しぶりの生野菜で、普段の不摂生を帳消しにすることにした。
そして、お待ちかねのピザ。生地が見えないほど、具材が敷き詰められていることに心が躍る。パスタはイカとチーズの相性がよく、なんとなく和風の感じもあって、落ち着く味わいだ。
連れてきてもらったことに感謝し、食事をしていた。
因みに、ちーさんは食べるのがとっても遅い。本当にゆっくり食べるのである。ちーさんは中学の修学旅行の夕食で、食べる早さが後ろから二番目だったと話してくれた。気がつくとみんな食べ終わっていて取り残されたそうだ。かなり早食いである私からすると正直ペースが合わない。だけど、ちーさんとの会話が楽しくて、久しぶりにゆったりとした時間を過ごすことができたと思う。
少しずつ口に含む爽やかなジンジャーエールが日差しと湿気を追い払う。
あくせくと働く日々を省みながら、親しい人との食事をゆっくりと楽しむ夏の思い出となった。
おわり