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【新書レビュー】『言語の本質』今井むつみ・秋田喜美

私はSNSを「どんな話題でも喧嘩に発展させる天才が集まる場所」だと思ってちょっと遠巻きにしている節があるのだけど、そのSNSでここ数日、幼児語についての喧嘩を見て思っていた。私が今たまたま読んでいるこの本を、みんな読めばいいのにと。

この本は、主に「オノマトペ」と「子どもたちの言語習得」について書かれている。前半部分でオノマトペについて詳しく説明し、そしてオノマトペが言語に含まれないとする学術的見解に反論する。後半部分で、オノマトペが言語として子どもたちの言語習得の最初の足掛かりになる事と、さらにそこからどういうプロセスで言葉を使えるようになっていくのかの道筋を示す。大変わかりやすく書かれているが、知らない情報が次々と説明されるので休憩できる部分がなくて、やや難解な印象ではある。

かなり前半部分に、母音と子音それぞれの音の持つイメージが説明される。例えば子音は、阻害音(p,t,k,s,b,d,g,z...)は角ばっていて硬く、共鳴音(m,n,y,r,w...)は丸っこくて柔らかいことが、色々な例も用いてわかりやすく示される。言語学者の方たちからしたら当たり前の知識なのかもしれないが、こういうたくさんの言葉を調べて法則を見いだした先人たちの知識を簡単に手に入れられる事には感謝してしまった。こういう感覚で受け入れていた事の根拠を知る瞬間ってすごく感動する。
この本にはそういう音の持つイメージや、言語の十大原則とか、今まで疑問にも思ったことがない事だけでなく、知識としては知っていた事の理由が説明されて納得したりもする。例えば英語にオノマトペが少ない理由や、外国語のオノマトペが日本語と全く違う理由など。本筋とは全く関係ないが、AIにセンター試験を解かせた実験で数学の点数が他の教科よりも低かった理由も理解した。

この本には、子どもの言語習得のプロセスが示されている。詳しくはこの本を読んで欲しいのだけど、子どもたちは何も知らない状態からオノマトペの助けを借りて言語のルールなどを学び、そこからあらゆる推論を駆使して語彙を増やしていく事を知った。
今まで私は、論理学的に間違っている、一部に当てはまる事を全体にも当てはまると推論する過剰な一般化は、人間がよくやってしまう良くないミスだと思っていた。しかしこの過剰な一般化が人間のみに見られる行動で言語の習得に大きく貢献していると知って、そんなに忌み嫌うべき行動でもないのか……と思い直した。演繹推論は正しいが、新たな知識を創造しないという点にも、なるほどと思わされた。
子どもたちの言語を習得する過程での言い間違いは、かわいいなぁと笑ってしまったり、人によっては間違いを叱ったりするけど、彼らが推論を駆使して辿り着いた答えなのだと思うと、笑ったら失礼だし、まして叱るなんて成長を阻害するすごく良くない事だなぁと思った。

私はもう日本語をある程度使えるようになったし、子どもに接する機会も少ないので、日本語に関してはこの本で得た知識を駆使する事はないのかもしれないが、目下習得中の英語学習には役立ちそうな部分も多かった。

『言語の本質』 3.5

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