めくる
本の背の上端から伸びる、紐状の栞。これを〈スピン〉という。
すべての本についているわけではない。だから手にした本にスピンを見つけると、嬉しくなってしまう。顔をほころばせながら、つまんで根元からすっと引く。すると、指先にくすぐったい感覚が走る。大好きな瞬間だ。この絶妙な力加減、伝わるだろうか。
わたしは今、壁一面の大きな本棚に向かい合う場所でこの文章を書いている。目の前にはたくさんの本。そのうち何冊かから、スピンの先がはみ出ている。重力にしたがって真っ直ぐ下に垂れているもの、変なクセがついたのか、あらぬ方向にはねているもの。色もそれぞれ違う。深海のようなブルー。やわらかなブラウン。一際目を引くオレンジ。こうして眺めていると、まるで小動物の尻尾が並んでいるみたいでかわいい。
本棚から一冊を手に取る。少しくすんだ黄色のスピン。ページをめくると、小さな文字がびっしり並んでいる。眩しい。眩しくて仕方ない。頭が真っ白になって、思わず本を閉じる。パタン、と乾いた音が響く——。
あらゆる文章を読むことが困難になったと気づいたのは、今年に入ってから。少し元気が出てきて、久しぶりに本を読みたいと思った。昔から読書が、本が好きだった。お気に入りの読書スポットは通っていた小学校の図書館。本棚と本棚の間に三角座りをすると、自分の膝の上がたちまち知らない世界への入り口になった。すっかり本に魅了されてしまって、いつの間にか言葉を扱う職業を夢見ていた。そのようなわたしにとって、文章が満足に読めないという事実はとてつもなく大きな絶望だった。しっかり傷ついて、何回も泣いた。
それでもやはり、わたしは心から読書が好きなのだと思う。本という存在そのものが。
だから読むことを簡単に諦めることはできなかった。まず絵本に挑戦した。それから、アイドルのブログ。以前読んで好きだった短編小説。易しくて短い文章でも、今までの倍以上の時間や体力が必要になる。
最近は少し長くて難しい文章にも挑んでいる。
ゆっくりでいい。焦らなくていい。疲れたらページを閉じてもいい。
スピンを挟むのだ、また本を開くときのために。
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