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「中嶋監督電撃退任」から学んだ、マネジメントのこと組織文化のこと

立て続けに野球の話で恐縮ですが、私の推しチームのオリックス・バファローズの中嶋監督が辞任を表明しました。

先日の今シーズン最終戦、タイトルのかかったこちらも私も推し宮城投手が豪雨のなか好投していたのに、まさかの雨天コールドで6回で試合が終了。タイトルどころか規定投球回にも届かずベンチの奥で泣いてるという姿に、心が締め付けられる思いをしてからわずか1〜2時間後、電撃的な辞任発表でした。

通常プロ野球の監督といえば名誉なポジションで、その球団で功績を上げたOBが選ばれることが一般的。一般的には複数年での契約を望むし、退任するときは、成績が振るわない年が2〜3年続いて球団から肩を叩かれるという流れです。ただ、中嶋監督はちょっと独特なスタンスを持っていて、優勝したあとでも1年契約を貫き、たった1年Bクラスに沈んだだけでささっと身を引いてしまったのです。球団やファンがここまで評価し、続けてほしいと願っていたのに、その手を振り切るように辞めてしまった人はこれまで記憶にありません。退任のコメントもこれまでの監督にはないもので、自分が長く監督をやったことによるチーム内の「慣れ」「緩み」を指摘する辛口なものでした。

「球団からは強く留めて頂いたんですが、やっぱり形として3連覇して、そのひとつの時代といったらおかしいが、何か足りないとなったとき、新しいことを始めるときには新しい人が始めるべき」
「今まで通りにやってても、人って慣れるじゃないですか。慣れという部分が今年は強く出てしまった。初めに言っていたのは全力疾走であり、攻守交代であり、そこはしっかりやってくれと。最下位からのスタートだったので、その最下位のチームがそれができないのはおかしい。勝ったチームはやらんでいいのか。どれだけ言っても改善されなかった」
「今のメンバーはファームで見て来た選手。(慣れは)その分もある。本当に4年間、(2軍監督時代から)6年間というスパンで考えたら、そのくらいでなるのかな。ある監督の人たちも言っていた。(監督は)5年ないし、7年で変わるのが一番、と。『ああ、そういうのが出るんだな』、と。『そういうことなのか、言っていたことは』というのが正直な感想」

デイリースポーツ 10/6(日) 22:30配信
https://www.daily.co.jp/baseball/2024/10/06/0018201652.shtml

発表から3日経ってもファンは抜け殻状態。Xなどを覗くと、監督の退任コメントを何度も何度も読み返し、その言葉の意味を噛み締め、反省したり憤慨したり絶望したり…。私もそのひとりです。ただ、プロ野球の世界ではやや異例なスタンスでも、ビジネスの世界で考えればかなり共通することや納得することがあって、この中嶋監督の辞任から私が学んだことを3点書いてみたいと思います。(※ちなみに私は野球ファン歴は40年近いですが、バファローズのファンになったのは2021年なので、ニワカであることをお許しください。)


①妥協しない自分への強さ

あらためて感じたことは、中嶋監督が1年たりとも妥協を許せなかったという意識の高さです。

オリックス・バファローズというチームは、長年”暗黒期”と言われる低迷期を過ごしていましたが、2021年に中嶋監督で正式に監督に就任してから近年では奇跡とも言えるリーグ3連覇を果たしたという経緯があります。正直なところ、暗黒期からの3連覇、2022年には日本一も経験させてもらったのだから、今年の5位という成績にも「まぁ1年くらい大丈夫」と思っちゃってるフシが、少なくとも私にはありました。3年間日本シリーズまで戦い、その合間にWBCもあり、ファンイベントもこなし、そりゃ疲労も溜まるだろうし身体のメンテナンスも行き届かないだろう。主力選手がメジャーに旅立ったり、怪我人が重なったりと不運もあって、「仕方ないでしょ」みたいな。

ただ、監督はそんな考えじゃなかった。実力はあるはずなのに優勝どころかAクラス争いにも絡めない。気のぬいたプレーは目立つし、最低限やってほしいとお願いした攻守交代でのキビキビとしたプレーや全力疾走すらやれない。そんなチームを「疲れてるのかな」「来年がんばろう」では片付けられなかったのだろうと、コメントからは読み取れました。

ちなみに、監督は常に疲労も考慮した選手起用をしていて、練習も効率的に時間をかけない配慮をしてるといいます。オールスターの監督になった時も「(毎年2日間開催されるのを)1日でいいのでは?」という提言もしたり、ただガムシャラにやれ!と言っているわけではありません。選手ひとりひとりがもっと考えていれば体調管理ももっとできるだろうし、試合にもっと集中できたのでは?という考えは納得できます。それに、プロ野球の順位というのは、1〜6位まで順位がついたとしても実はその差はわずかです。今年は例年になく1位と6位がダントツだったので参考にしにくいのですが、2023年のデータを見ると、1位オリックスと6位日本ハムの総得点の差は44点、総失点の差も68点。2位ロッテと3位ソフトバンクのゲーム差は0。3位ソフトバンクと4位楽天のゲーム差も1.5です。年間143試合をこなしてこれだけの差なので、つまり1試合ごとのわずかな走塁意識、わずかなエラーが積み重なって1年の順位を決めてしまうとも言えるのです。

「まぁ1年くらい大丈夫」「仕方ないでしょ」と考えてしまう甘えは、私自身にもそれはそれは根深くあります。「先月は頑張ったから今月はちょっとサボっても大丈夫」「疲れてるから仕方ないでしょ」みたいな考えは、いつだって私を取り巻いています。もちろん適度に休むとか無茶しないことも大事なんですが、中嶋監督の1年たりとも停滞を許さなかった姿勢に、プロフェッショナリズムを感じたし、身の引き締まる思いがしました。

②世代交代の普遍的な需要性

辞めてほしくないというファンとしての願いはさておき、客観的に見ると、中嶋監督は2軍時代から数えると6年間監督をやったことになります。選手の中にはちょうど監督の昇格と同時期に2軍から1軍に上がった選手も多いので、6年間どっぷり中嶋監督の元にいたという選手がかなりいます。6年というと、もし企業の上司と部下だったらなかなか長いですよね。

中嶋監督自身のコメントでも、5年ないし7年で変わるのが一番と聞いていたが、自分が6年やってみて「やっぱりな…」と思ったことが伺えますが、たしかに同じ上司と6年というのは長いのかもしれません。そのデメリットを中嶋監督は「慣れ」と表現しましたが、どこかマンネリ化してしまう、基本を忘れがちになる、その結果としてどうしても成長が頭打ちになるということがあるのかもしれません。どちらが悪いとかではなく「人間ってそういうもの」ということです。

私は会社勤めをしていた頃、およそ3年くらいで上司が入れ替わるのが常でした。ホテルを運営する会社なので、新しいホテルが開業するとそちらに異動していく人たちがたくさん出てくるのですが、そうなるとたいてい既存のホテルに残されるのは、はじめてマネジメント職につく上司やはじめてリーダーに就任する若手社員。ただ、そんな中で経験上言えることは、少々強引なくらい上司が入れ替わった方がいいことが多いということです。たしかに最初は不安定なこともあるし、うまくいかないこともあるのですが、なんだかんだで若手が成長し、中堅に責任感が芽生え、以前は人に頼るばっかりだったスタッフの目の色が変わっていく姿をたくさん目撃しました。慣れないメンバーでギクシャクする時でも、そのおかげで、それまで何となくやり過ごしてきた課題に新たに取り組めたり、発想を変えることで新しい成長をすることができたりした記憶があります。

野球チームと企業では違うところもあると思いますが、つまり、ひとりのマネージャーが同じポジションを6年続けることにはデメリットもあって、多少強引でも新しい人に挑戦してもらうことの効能はたくさんあるのです。とはいえ、周りに引き止められても自らそれを察して身を引ける人はそういないと思いますが、それをやった中嶋監督の胆力たるや。

③組織文化の上に成り立つ

今回の件で、ソフトバンク・ホークスの小久保監督がインタビューに答えていて、興味深い記事がありました。

3連覇して、優勝争いに絡めない中でそういう形(辞任)になってね。中嶋さんらしいといえば、らしい」とライバルチームを率いた指揮官の現実に寂しげな表情を浮かべながらも「勝っている時に当たり前のことを当たり前にするチームを作るというのが、一番大切なんじゃないですかね」と自らに言い聞かせているようでもあった。今季、新人監督最多の91勝を挙げた指揮官の言葉だけに、重みがある。王者には、王者としての姿、風格が求められる。そういうことか。

 思えば今年の開幕戦直前、小久保監督はチームへ向けた訓示で「プロフェッショナルとは何ぞや」といった自身の思いを熱く説いた上で「おのおのが誇りとプライドを持ち、替えのきかないプロフェッショナルであれ」と鼓舞していた。その「プロフェッショナル」としての在り方の一つには当然、中嶋監督が辞任理由に挙げていた「全力疾走」の徹底も含まれている。だからこそ、強く共感する部分があったのだろう。

西スポWEB OTTO!2024.10.07配信
https://nishispo.nishinippon.co.jp/article/865522#goog_rewarded

小久保監督といえば、今も現役時代と変わらずシャキッとしていて、自分にも他人にも厳しそうな人という印象です。特に今年は「王者奪還」という使命のもと圧倒的な強さを見せてパ・リーグを制し、本拠地最終戦でのスピーチは「ソフトバンクの監督らしいなぁ」と思いました。ホークスは常勝軍団というイメージが強く、取り巻くOBやメディアやファンもなかなかに手厳しいイメージがありますが、その背景には「王者らしくプロフェッショナルらしくあってほしい」という思いがあり、王監督、工藤監督の時代を経てチームの組織文化として築き上げられてきたんだなと、スピーチを通して感じることができました。ここ数年は優勝から遠ざかっていましたが、小久保監督はおそらく「プロフェッショナルたれ」という言葉で、チームが育んできた価値観をうまく選手に思い出させることができたし、自分自身が先頭に立って体現できる人だったからこそ、今年の圧倒的な強さがあったのではないかと感じます。このあたりは巨人にも共通するものを感じますが、長い歴史という武器を持つ巨人に対して、比較的歴史の浅いソフトバンクがこのような組織文化を築いたことはあらためて脅威だなと思います。

企業でも、組織文化があるところは強いなと思います。マネージャーが入れ替わっても世の中の状況が変わっても、判断に迷うような場面でどういう選択をするか、知らず知らずに意思統一できているような会社は成長が早いと思います。トップダウンで社員を動かすことが難しくなっている時代だからこそ、なおさら空気としていい価値観が根付いている会社は成長が早いし、コストもかかりません。ビジネスパーソンにとっても、特に新卒で入った会社の影響というものは強く受けるもので、良くも悪くも最初に入った会社の価値観を引きずることがあるし、ソフトバンク・ホークスのようなチームに入ったら、自然と背筋が伸びるようなことがあるんだろうなと思います。

一方で、オリックス・バファローズは「昔からゆるいチーム体質だった」など、過去を蒸し返すような指摘をする人もチラホラいますが、たしかにソフトバンク・ホークスや巨人のようなシャキッとした組織文化はないだろうなと思います。(2005年にチームが合併しているので)どこまで歴史を遡るべきかは難しいですが、かつての近鉄バファローズを見てもオリックス・ブルーウェーブを振り返っても、勢いがついたら手がつけられなくなる猛牛軍団とか、イチロー擁する自由でのびのびとした新時代のチームという印象で、「常勝軍団」という言葉は馴染まないと思います。球団OBも優しいコメントをされる方が多く、まして3連覇したこともあって今年は成績が振るわなくても厳しい発言を聞くことはありませんでした。ファンからしても「選手同士が仲がいい」「上下関係があまりなさそう」「明るい楽しそうに野球をやる」ところを魅力と感じていた人は多いと思います。私もそのひとりです。

それに対して今回の中嶋監督のコメントを拡大解釈して、「だいたい昔から…」「チャラチャラしている」みたいに否定するコメントを見かけることもありますが、それは違います。もともと中嶋監督が就任する前は「一度リードされたらお通夜のようにベンチが暗い」とか言われてしまうようなチームでした。(※再度書いておくと、私がバファローズのファンになったのは2021年なので、このあたりの時代のことは記事などで知っただけであることをお許しください。)それを明るく変えたのも、実は中嶋監督です。2020年8月に前任の西村監督の休養に伴って代行監督に就任した直後、パ・リーグの公式Youtubeで紹介されたのがこちらの動画。

この時期はすでにシーズン終盤なので成績はほぼ最下位確定のような状況なのですが「ベンチが元気!」というだけで紹介されているのです。ちなみに、このカメラが中嶋監督代行を撮ろうとすると必ず割り込んでくる辻コーチも、中嶋監督が代行監督に就任した時に2軍から一緒に連れてきたコーチです。常に選手よりも喜んでベンチを盛り上げる姿が印象的で、正直、過去の実績からしても指導力というよりも「元気要員」だったと思います。

上限関係が厳しくないところも、イケメン選手が多くて球団がアイドルのような売り込み方をするところも、私は肯定的です。なにより監督自身が(メディアには塩対応でも)選手に気さくに接し、生意気なことを言う若手選手のことも可愛がっていました。もし中嶋監督がこれらにも否定的だったとしたら、身近なベテラン選手に注意を促していただろうし、球団にもいろんな要望が出せたはずです。(GMや球団社長にモノが申せないような関係ではなさそうでした。)ただ、その明るい風土を残しつつ、自分に厳しく勝利を追求する姿勢を選手に求めるのは、かなり難易度の高い作業だっただろうと思います。そりゃ疲労困憊しますよね…。

ソフトバンクのように「プロフェッショナルたれ」という言葉だけでピリッと緊張感が走るような組織文化はなくとも、代わりに「明るい」「楽しそうに野球をやる」「上下関係が厳しくない」という組織文化を強みに戦うにはどうしたらいいのか、次の監督に求められる課題はそんなところなんじゃないかと思いながらも、これがうまくいけば、これからの時代の企業にとってもまた学びがありそうな気がします。何にせよ、勝てば賞賛され負ければ否定される世界。うまくいかなかったことも含めて、そのチームとしての生き様に一喜一憂し、学びや活力を得るのがファンなので、また来年以降も応援し続けたいと思います。

監督に頼らずに選手の自主性で勝てるチームに

さて、この投稿を書くのに時間を要している間に、新監督が発表されてしまいました。新監督は岸田護さん、通称マモさんです。

何度も言うように私は2021年にファンになった新参者なので、岸田選手時代をほぼ知らないのですが、それでも引退セレモニーでのスピーチは語り草になっていますし、”マモさん”の話題はよく選手の間でもファンの間でも耳にするので知っていました。生え抜きの40代で、みんなに慕われながらもどこかに厳しさも漂わせる雰囲気は、中嶋監督のあとを受け継ぐには適任だと思います。とはいえ監督としては新任。投手出身でもあるので、どちらかといえば野手陣に課題を抱えるチームとしては未知数なところもあります。

ただ、期待するのは、強制的に監督が変わったあとの選手たちの変化です。これまでどちらかというと監督に甘えることが多かった選手たちですが、和気藹々とした風土を武器に、自分たちで考えて、鼓舞し合って、戦える集団になってくれたらすごく嬉しいです。

最後に、伝説となっている岸田新監督の現役引退セレモニーでの言葉

これからオリックスは強くなります。長い長いトンネルを抜けようとしています。成長し続ける若手がチームを盛り上げ、実力十分な中堅がチームをまとめ上げ、まだ残るベテランが背中でチームを引っ張ってくれると思います。絶対に強くなります。これからのオリックスはおもしろいです。

その先、頂点へ導いてくれるのは、いつも熱い声援を送ってくれるファンのみなさんです。ファンのみなさんがこのチームを優勝させます。選手は応えます。これからも末永くオリックスをお願いします。

https://pacificleague.com/news/19514

そう、ファンも新たな気持ちで来シーズンを迎えましょう。

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