麻酔科医が人を笑顔にする方法と笑顔をもらう方法
私は麻酔科医です。
麻酔科医は、多くの人が思い描く医師像と
少し離れた仕事をしています。
医者の仕事を「人を助ける仕事」のように
思ってくださる方がいらっしゃるけれど
麻酔科医は患者さんから感謝されることがかなり少ないです。
(もちろん「患者さんにとっていいこと」をしているとは思うし、
感謝されるために仕事をしているわけではないだろ、
と言われればそのとおり・・・)
手術室で麻酔をするのがだいたいの麻酔科医の主な仕事ですが
仕事で「患者さんを笑顔にする」ことができる機会は比較的稀です。
なにせ患者さんは寝てますからね!
麻酔科の中でもいろいろと専門があり
私は「無痛分娩」にかかわっている麻酔科医です。
無痛分娩は手術麻酔と大きく違って
うまくいけば患者さんにとても満足してもらえ、
「笑顔にする」ことができます。
人にはさまざまなモチベーションがあると思います
医者の中にも「研究で新しい発見をしたい」人も
「科学を実証したい」人も
中には「お金が欲しい」人もいるかもしれないけれど、
今の私の原動力は
「麻酔ってすごいですね、おかげで痛くなく産めました。
これから育児頑張ります」という患者さんの言葉であり、
またその手ごたえ。
それともう一つ、モチベーションが。
子どもを産んで以来、お産にかかわることで
自分の出産の追体験をしています
「そうそう、ここはちょっと痛くなるところですね」とか、
「すぐ痛み取れてくるのでもうちょっと頑張ってくださいね」
といいながら、内心、勝手に異常に共感。
ハッピーをおすそ分けされているのです。
最近無痛分娩のニーズが増えてきて、
私の職場でも無痛分娩を担当できるスタッフを増やそうとしています。
麻酔科としてのキャリアはわたしよりずいぶん上の、
新しい先生と一緒に無痛分娩を担当する機会があります。
その一人に、私が心の中で「鉄仮面」とあだ名をつけている上司が。
あまり感情を表に出さずになんでもこなしてしまうすごい人。
あまり感傷的なところのない雰囲気なので、
「産科麻酔に興味あるのか?」と内心やや疑っていました。
先日お産に立ち会いながら、
「はい、おへそみるようにー」
「息大きく吸ってー・・・とめます!」
という助産師さんの声に交じって、
「そうです、すごく上手にいきめてますね!」と聞き覚えのない声が。
なんとその「鉄仮面」の声でした。
目を輝かせて、見たこともない生き生きした笑顔で。
大きく、かつあたたかい声で。
「ああ、こんなに人を変化させて、
生き生きさせる仕事ってあるんだ」と
ますます私が産科麻酔をやっててよかったと思った日でした。
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