歌からショートショートを作ってみたvol.5
『涙』
「大丈夫だよ」
いつも優しく頭を撫でてくれる。嬉しい。ありがとうと言いかけたら、涙がボロボロ出てきた。
「優しいね」
彼はニコッと笑う。だけど、素に戻る瞬間の目はひとつも笑っていなかった。
「また、泣いてるって思われた」
私はいつも泣いている。会えないと言っては泣き、やっと会えたと言っては泣き、淋しいと言って泣き、大丈夫、頑張るからと言って泣く。
「感受性が豊かなんだよ」
彼は難しい言葉を使う。私がもっと、しっかりしていればもっと、ストレートに感情をぶつけることができたろうに、いつも顔色を伺うように、言葉も何回も何回も噛み砕くように、だけど、出すのをためらうようにやっとの思いでつぶやく。
「ごめんね」
そう言いながら、また涙が出てきた。いつまでこんなことを繰り返しているんだろう。
「いいんだよ」
ゆっくりと頬をなでられる。フワッと風が吹いたような気がした。フッと彼の目線が泳ぐ。
「泣きたいなら、いっぱい泣いていいよ」
もうすでに号泣。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を見せるのがイヤで、後ろを向いた。
「きっと、泣くことが必要なんだと思う」
目線を下に置きながら、ゆっくりと吐き出す。
「泣くことは悪いことじゃない」
背中に空気の響きが伝わる。ハッキリとした力強い声。
「泣かないでって言う人は、誰かの涙を見ると胸がキュッと苦しくなる何かを抱えているんだと思う」
スーッ 息を吸い込む音。
「だけど、その苦しさがあるから、寄り添うことができる」
泣き続けている私の肩にそっと触れる。
「泣くのも、怒るのも、笑うのも全部、一緒だよ」
やっとの思いで捕まえた蝶々を逃さないかのように柔らかく、ゆっくり両手を回す。
「僕は苦しくないし、悲しくない。」
頬を寄せてきた。ビクッ!怖い。
「どうしてそんなこと言うの?」
消え入りそうな自分の声。
「そう言わないと、君がつらくなる。泣いている自分が嫌いなんだよね?」
うん。だって、泣いてばかりいるとみんなが困る。泣き止ませようとする。
「泣いてもいいの?」
腕をギュッとつかむ。この手を離したら、いなくなってしまうかもしれない。
「どっちでもいいよ」
笑ってるような、怒ってるような不思議な顔。
「泣くことは君がそこにいることより、大事なことじゃない。どんな君でもそばにいて欲しい」
彼の腕に力が入る。あ、不安だったんだ。ふと思う。泣き続けることが不安なように、彼も私が目の前からいなくなることを不安に思っている。
「大丈夫だよ」
ずっと泣いているけれど、しっかり言葉を返した。
TK from 凛として時雨『katharsis』