“Japanese Pop”の文脈で、音楽とアニメがクロスオーバーする日がそこまで来ている ~アニメ『BNA』の音楽を語る~
アニメ『BNA ビー・エヌ・エー』が見たい。
ただそれだけの理由で、久々にNetflixに課金してしまった。Amazon Prime Videoとdアニメにも会員費払っているのになぁ……。
2020年4月から放送開始予定、現在Netflixで先行配信中のTRIGGER最新作アニメ。
でも私は制作陣以上に、アニメを彩る音楽に惹かれている。
EDテーマは若手クリエイターの強力タッグ
EDテーマのShin Sakiura feat. AAAMYYY『NIGHT RUNNING』。
初めて聴いたとき、私は文字通りに雷に打たれたような気分になった。
Shin Sakiura。現在24歳ながら多数のCM・PVを手掛けるトラックメイカー。
AAAMYYY。今を時めくTempalayのシンセサイザーとしても活躍する、女性シンガーソングライター。
日本の音楽界の未来を担う、しかし日本人離れしたセンスを持ち合わせた2人が、TRIGGERの世界観に本気で挑んでいる。
■絶妙なピッチコントロール
Shin Sakiuraさんがその絶妙なピッチコントロール術が魅惑的だが、『NIGHT RUNNING』についてもまた然りだ。
AAAMYYYのボーカルのピッチと比較して、バックトラックのピッチは常に低めを推移していて、これが妙に癖になる。
表面上は平静を保ちながら、奥底では歪んでいる。
そんなアニメの世界観を表現しているかのようだ。
■作りこみすぎない、心地よい不安定さ
しかしずっとピッチに注目していたら、あることに気づいた。
03:30の「走り続けて」だけ、ボーカルのピッチがちょっと低い。一瞬だけバックトラックのピッチに揃う。
繰り返しのフレーズだが、どうやらコピーペーストで済ませているわけではないらしい。
しかも全体的に、ゴリゴリにはボーカルのピッチ調整をしていない。
随所に残された“人間”らしさが、心地よい不安定さを楽曲にもたらしている。
OPテーマは主人公・影森みちるによるキャラソン
OPテーマは、諸星すみれちゃんの演じる主人公・影森みちるによるキャラソン。
EDテーマとは一転、ポップなダンスナンバー。まるでみちるような真っ直ぐさだ。
それにしても諸星すみれちゃんのイノセントな声質は、なんと唯一無二なのだろう。
3歳で劇団ひまわりに所属をしてから15年以上の芸歴を積み上げ、それでもなお子供のように透き通った声質。
『Ready to』のサビでは裏声を多用しているにもかかわらず、曲の勢いはまったく失われていない。才能としかいいようがない。
主人公・みちるの声ながら、本格的な歌唱力。
ストーリーがより鮮明に浮かび上がる。
mabanuaさんの器用さが表れる劇伴
劇伴はmabanuaさんの器用さが随所に現れている。
数々の楽器を弾きこなせるうえ、トラックメイカーやプロデューサーなど多方面で活躍中のmabanuaさん。手掛ける曲調は幅広く、かつてアニメ『坂道のアポロン』ではジャジーなオリジナル曲を書き下ろした。
『BNA』では、EDテーマに触発されたかのような遊び心あるトラックを基調としつつ、ストーリーに合わせてオーケストラ調の劇伴なども流れている。
1人の人間とは思えないほどの器用さだ。
「Brand New "Anisong"」
『BNA』は「Brand New Animal」の略らしいが、「Brand New "Anisong"」でもあると私は思う。
少しわき道には逸れるが、『BNA』の楽曲を聴いたとき、Apple JapanのCM「Macの向こうから — まだこの世界にない物語を」を見たときと同じ気持ちを抱いた。
アニメの「MacっぽいPCが登場するシーン」をつなぎ合わせて話題となったこのCMで、流れている楽曲は中村佳穂さんの『アイアム主人公』。いわゆるアニソンっぽい曲ではなく、日本の音楽シーンを現在進行形で揺るがしている女性シンガーソングライターを起用してきたのだ。
私たちにとってアニソンといえば『残酷な天使のテーゼ』であり、『Agape』であり、『紅蓮の弓矢』であり、『ようこそジャパリパークへ』であり、『紅蓮華』であり……。
もちろんけしてこれらが間違っているわけではないし、どのアニソンも出てきたときは新しかったのだけれど。
それでもさらに一歩、『BNA』の音楽は「アニソン」と定義するのを躊躇するくらいに新しい。
日本の音楽は、ストリーミングサービスというライフスタイルが浸透し始めて以降、今までにない速さで進化し始めている。
そして日本のアニメは、かつてのマニアックさを脱却して日本文化の中心に立とうともがいている。
日本の音楽と、日本のアニメ。
進化の速度を緩めて「それっぽい」で妥協するのではなく、互いに全速力で走り続ける。
まるで『NIGHT RUNNING』『Ready to』の歌詞に象徴されているかのように。
“Japanese Pop”の文脈で、音楽とアニメがクロスオーバーする日がそこまで来ている。
誰かに決めつけられた、私たちが思い込んだ妥協点ではない。
音楽とアニメの「自由に生きてたい」という我儘が、たまたま、ようやく、同時に叶えられようとしているのだ。