耽美世界が好き
『甘い蜜の部屋』という、森茉莉の小説を読んだことはあるだろうか。
近代文学で卒論を書くと決めている私は、本を100冊以上は読み、それでも決めあぐねていた。
一縷の望みをもって、図書館で惹かれたタイトルの本に手を伸ばす。
『甘い蜜の部屋』
無性に、心がくすぐられる感覚。
心が、ソーダ水の中に入っているみたいな、ぱちぱちとした、心地よい刺激。
開いた小説世界の一行目は、
なんだか、引き込まれていく。
やさしく、おだやかな手に。
私を、世界に引っ張り込んでいく。
もう、それからは沼と言っても良いほど、ハマりこんだ。
沼は沼でも、濁っていない、清純で美しい沼。
耽美が大好きなんだな、と思った。
私の嗜好はかなり傾いていると、昔から思っていたのだけれど、正体が不明で、人に伝えられなかった。
これからは自信をもって言える。
耽美が好きなんです、と。
小学生の時、好きな音楽を書く欄に、流行りの曲を書かずに、クラシック音楽と書いたこと。
母の持っている宝石の写真ののった雑誌や、さくらももこの宝石のエッセイが好きだったこと。
入浴剤のカプセルで出てきた、シークレットの真珠をずっと大事にしていたこと。
『黒魔女さんが通る』のチョコが着ているふわっふわのパニエや、レース、ロリータ服に憧れを持っていたこと。
博物館のモルフォ蝶に、目を奪われたこと。
谷崎潤一郎の小説があまりにも好きだったこと。
全てが伏線のように、耽美という糸でつながっていく感覚。
よくわからなかった自分が、やっとすこしわかったような、気がした。
この記事を、今、クラシックを聴きながら書いている。
ピアノが鳴り響くたび、真珠が転がっていくイメージや、たっぷりとした布が風でふくらむイメージ、美しい少女の人生を追っているイメージが浮かんでくる。