永遠の我々③
《新たな我々》
暗闇の向こう側から、広大なマス目状の床を照らす水平の明かりが射し、そのとき周囲に残っている我々が半数程度になっていることがわかった。
水平の光の隙間はすぐに閉じられ、床がゆっくりと動き出し、ところどころに浅く大きな窪みがつくられ、我々はその底に向かって滑り始め、他とぶつかり、回転し、残っている個体らの位置が入れ変わり、集められ、散り散りになっていた我々は再び隣同士になっていた。
浅い窪みは徐々に真っ平らになり、再度整然と並べられた我々は、息を殺して様子をうかがっていた。
これから別の選別が始まるのだろうか。隣同士の配置を変え、隣同士を近づけて、隣同士の運命を間近で見せるためなのだろうか。次に始まるゲームは、我々をどうしていくのだろうか。
***
私の新しい位置は、先ほどまでいた場所からどれだけ移動したのか不明だった。
ただ、さきほどまで冷たくて綺麗だった床が、何か温くて不愉快な液で濡れていた。それは個体の表面の傷から出たような臭いがした。
落ちたり上ったりする移動でそのような怪我をしたのか。筒に挟まったり、床の扉に挟まったりしたものではないだろうか。あるいは回転移動で表面が擦られたせいなのか。
少なくともその不快な床の上で、じっとしていられなかった。自ら動けない我々は、どんな環境も甘受しなければならなかったが、その体液は私の身体を腐らす源になりそうだった。何か変化が必要だった。上でも下でも回転でも、何らかの移動が必要だった。
不快に耐え、何かの変化をじっと待っていた。
そのうち、何分経ったのか、何日経ったのか、何年経ったのか、その区別も怪しくなり、朦朧としたまま、周囲の気配がわからなくなっていった。
***
私は腐りはてたのか、青い光とともに天井に吸い込まれたのか、それとも赤い光とともに地下に落ちたのか、暗い果ての中で意識は広がり、上下左右全ての周囲を飲み込む「新たな我々」という意識が芽生え、その中で、あるものは生きながらえ、あるものは死に、あるものはとっくに死に絶え、あるものは生まれ、あるものは生まれる順番を待っていた。
「新たな我々」は生死を取りこみ、生死を越えて、強靭な何かになっていた。自信に満ちた意識が身体中に行き渡り、個体全てがぶつぶつと内側から押されるように張りが生まれ、ヘドロのように重なり合っていた我々は、それぞれの表面に光沢を取り戻していた。
「新たな我々」とは何なのだろうか。しかし、先ほどの「我々」と同じゲームにさらされるのはまっぴらだった。不死身と思える我々も、各個体が分断され、勝手に運命を決められるのはごめんだった。動けない我々は我々の運命くらいは自分らで握っていたかった。
***
日が照っていた。
我々は好き勝手な場所で好き勝手に転がり、好き勝手な楽しみを見つけて、永遠の幸せを享受していた。床に個体ごとの区切りなどなかった。
我々は皆同じような形をしていて、それはもう本当に数えきれないほど沢山いた。我々はなおも増え続け、それは大いなる強みだった。
誰もこの集団に太刀打ちできないし、誰もこの集団を引き裂くことはできなかった。
遠くの方で、誰かと誰かが共感しあって歓声を上げていた。その歓びは伝播し広がり、集団全体が、嬉しさの高揚感に包まれた。
次の瞬間、空と区別がつかなかったダムのような大きなゲートがゆっくりと開いていき、全ての周囲が暗闇に満ちていった。
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