不条理ばかりの世界での「生き方」を知る1冊『ペスト』の感想
『ペスト』は、不条理に立ち向かう個人の物語だ。不条理の中で自らの生き方を突き通す物語であり、不条理に喜びを感じる物語であり、不条理の中で幸福を選びなおす物語であり、不条理の中で生きることを選び続ける物語だ。
物語は、感染症の「ペスト」がある都市を襲い、都市封鎖となるところから始まる。
あっという間に死に至らしめる感染症という、どうしようもない不条理が現れる。
医師、新聞記者、犯罪者、神父など、それぞれの信念、価値観、生き方をしてきた個人が、この不条理をどう感じ、変化し、生きようとしたか、それぞれの微細な感情を描き、行為を描いている。
それぞれの登場人物の変化を知ることで、不条理の中での個人の生き方を知り、感情を追体験することができる物語だった。
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「いひがしだったら、ペストの環境の中でどんな行動をするの?」
ペストの感想を話していたときに、ある人から言われた問いで、この物語が自分にとってどういうものだったのかを考えるきっかけになった。
ぼくだったら、どうしただろうか。そう考えていくと、この物語は、「ペストの中のいろんな人を描いた物語」から、「不条理の中で、個人がどういう行動をしたかの物語」に変化した。
ぼくは登場人物のどの人の変化が印象的だったか。この人のような行為ができるか。違う行動をするのだろうか。
コロナ禍の中で、自分は何を感じ、どんな行動をとっただろうか。
そして、その行為をする意味についても考えるようになった。
登場人物の一部は共同で、集団のための活動を始めるのだが、自分にとってその行動にどんな意味を見出すのだろうか。死と隣り合わせの行為を進んでするようになるのだろうか。
翻って、コロナ禍で「家にいた」行為にどんな意味を見出していたのか。物語で描かれる市民の活動は、コロナ禍ではどんな行為になりえたのだろうか。
そして今抱いている感情、たとえば、ハッシュタグで法律の成立を防ごうと活動したいと思うこと、ある事件に際して「一番悪いのは○○だ」と認定したいと、「目の前のリアルな生」と少し離れたことに、意識が向かい、正義の側にいたいと思う、心の動きと地続きなのだろうか。
そんなことを考える。
『ペスト』を読んで、どんな感想を持ちましたか? 読んだ人と感想を話しあいたいなと思う。
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