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大瀬良大地に何が起きているのか?
開幕から2戦連続完投勝利と好スタートを切った大瀬良大地ですが、その後は明暗がはっきりする投球が続き、更にコンディション不良による戦線離脱を経験するなど苦境が続いています。
実際試合での投球を見ていても、中々調子が上がってこないのが伝わってきますが、その投球内容やボールは昨年までからは大きな変化を見せています。
その変化を詳しく取り上げていくとともに、エースとしての投球を取り戻すカギは何なのかについて考えていこうと思います。
1.開幕戦で見せた新境地
開幕戦に投じた初球の138㎞で低めに沈んでいくボール。
打者の梶谷隆幸がすくい上げるもライトフライに打ち取ったこのボールこそ、大瀬良の投球の幅を広げたボールの「シュート」です。
シュートというと大瀬良は既に投げているのではないかとの声もあるかと思いますが、その通りプロ入り2年目の2015年に習得を目指したボールで、昨年も投球割合は低いながらも投じた形跡はあります。
しかし、シュート解禁がストレートやカットボールの質にも影響を及ぼし、昨年までは上手く機能しませんでしたが、今年は開幕延期後の期間にも継続して習得に励み、開幕前の練習試合では下記記事にあるようにシュートを多投して結果を残すなど、一定の成果を持って開幕を迎えたようです。
そんなシュートがこれまでと違うのは、斜めに鋭く沈んでいくような軌道を描き、シュートとフォークの中間のような変化を見せるようになっていることです。
140㎞前後と球速帯は得意のカットボールと同じところにあり、右打者に対して食い込ませるだけでなく左打者の外にも多く投じ、大瀬良得意のバックドアのカットボールとの相乗効果も期待できるボールへと変化しました。
決して空振りを多く取れるボールではありませんが、選択肢を増やすボールとしては機能し、昨年のシュートのPitch Value(100球あたり)-9.38から、今年はここまで-0.41とその数値を向上させています。
加えて、カットボールのPitch Valueも一昨年、昨年以上のペースで稼ぎ出してるあたり、カットボールとの相乗効果も表れていると言えそうです。
2.生じつつある課題
上記のようなシュートの質の変化により投球の幅を広げて、調子は良くないながらも2戦連続完投勝利を収めた大瀬良ですが、その後はコンディション不良もあって一進一退の投球が続いています。
投球の幅を広げ、階段を一段昇ったはずの大瀬良に何が起きているのでしょうか?
①ストレートの平均球速の低下
先発に再転向した2017年に平均球速144.5㎞を記録して以降、毎年球速は上昇を続けましたが、今年はここまで144.8㎞と逆に低下してしまっています。
登板日別の平均球速を見ても、昨年の平均球速146.0㎞を上回ったのは僅か一度と、冴えない数値が並んでいます。
コンディション不良の影響や打球が直撃した影響のあった登板もありますが、それ以前の登板でも昨年の平均にすら届いていないのは、単に調子の悪さを示しているのか、それとも何か異常がある中投げ続けていたのか気になるところです。
そんな球速低下に加えて、空振り率も6.4%から4.3%まで落ち込んでおり、Pitch Valueも既に-9.4と例年以上の速さでマイナスが積み重なっていることから、打者にとって対応しやすいボールへと変化しているようです。
それを自覚してか、カーブの投球割合を増やしており、よりストレートを速く見せようという意識はあるようですが、それも結果にはあまり結び付いていません。
もちろん球速だけでストレートの威力を測ることは出来ませんが、球威を測る一番の指標であることには違いないですし、投球の基本となるストレートの球威低下が成績に悪影響を及ぼしている可能性は高そうです。
②左打者への苦手意識
最多勝と最高勝率を獲得した2018年、好成績の要因として挙げられたのが、それまで苦手にしていた左打者を封じ込めたことでした。
大瀬良最大の武器であるカットボールとともに、スプリットが進化したことで左打者への攻め手が増え、被打率.220まで封じることに成功しました。
好成績を収める上では必須となる左打者封じですが、ここまでは被打率.336と例年以上に痛打を浴びるシーンが目立ちます。
左右打者別投球割合を見ると、左打者に対しここ2年は、右打者対戦時と比べスプリットの割合が増える傾向にありましたが、今年は傾向こそ変わらないもののそもそもスプリット自体の割合が低く、右打者対戦時と比べてストレートが大幅に減少し、シュートの割合が増えていることが分かります。
割合の増えたそのシュートが左打者に機能すれば良いのですが、左打者への被打率が.450(20-9)と機能しているとは言い難い結果で、カットボールの被打率も.267(45-12)と、上述した左打者に対してのバックドアのカットボールとの相乗効果もあまり出ていないような状況です。
このように左打者対策のシュートが、思うように機能していないことに加え、スプリットもまともに使っていない(使えない?)ことで、対左打者については昨年以上に状況が悪化しているのです。
③奪三振率の低下
ストレートの球威低下の影響もあってか、K%が一昨年の21.9、昨年の19.1から今年は14.2まで大幅に低下しているのも気がかりな点でしょう。
球種別空振り率を見ると、カーブこそ過去2年よりも高い数値を記録していますが、それ以外の球種は軒並み低下傾向にあり、大瀬良の投球の根幹となるストレートとカットボールは2~3%ほど低下しています。
シュートを投じる割合を大幅に上げたことで、その他の球種の質が空振りを奪えるものでなくなっているということなのかもしれません。
④ゴロ系への変化
その他の変化点としては、かつてはフライ系だった打球傾向が大きくゴロ系に振れている点でしょう。
昨年のGB/FBが1.05と、ゴロ性の打球がフライ性の打球を上回っていますが、今年はそれが更に顕著でキャリアの中で最も高い1.32をここまで記録しています。
シュートの投球割合を増やしたことが、おそらくこの変化に結び付いているのでしょう。
その分長打を浴びるリスクは少なくなっており、昨年22本浴びた本塁打をここまで4本に抑えていますが、ゴロが多いということは当然内野守備力の影響を受けやすい状況です。
その肝心の内野守備ですが、UZRで見るとどのポジションも下位に沈んでおり、ゴロの処理能力は数年前に比べるとかなり低下してしまっています。
大瀬良の登板時でも守備の乱れから失点してしまうケースが多々見られ、自身のスタイルチェンジとチーム状況がミスマッチしている状態が続いてしまっているのです。
大瀬良の成績が不安定なのには、自身のボールの変化だけでなく、周囲の状況の変化によって引き起こされている部分も少なからずあると言えましょう。
3.エースとしての投球を取り戻すには
ここまでの投球を振り返ると、スプリットの代替としたいシュートが対左打者に思ったように機能せず、かつストレートの威力が低下しているために、このような成績に落ち着いてしまっていることが分かります。
今後成績を改善方向にもっていくためには、左打者対策で一時的にスプリットの割合を増やしても、質が伴っていないとあまり意味はないため、ひとまずストレートの威力を取り戻すことに注力してもらいたいと思います。
ストレートの威力を取り戻すことで、その他の球種の威力も増してくることでしょうし、それが根底にあっての左打者対策とも言えると思います。
8/22の登板からシュートの投球割合を大幅に減らしており、新たな道を模索している大瀬良が、今後どのような投球でらしさを取り戻していくのか、注視していきたいところです。
データ参照:1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/index.aspx)
データで楽しむプロ野球(https://baseballdata.jp/)
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