広島打線の得点力不足を深掘りしてみる
今季ここまでの広島において、最大の課題を挙げるとすると得点力の部分で間違いないのではないでしょうか?
昨年の得点数はリーグ2位と一昨年リーグ4位に落ち込んだ得点力から回復の兆しを見せましたが、ここまではリーグ5位と今一つ得点力が伸びてきません。
チーム打率はリーグトップに肉薄する.252と決して打てていないわけではなく、塁上を走者で賑わす状況を多く作っているにもかかわらず得点数が伸びないのは、見ている側からしても非常にストレスのたまる状況が続いてしまっています。
その要因として考えられるのが、得点圏で一本出ないことと長打力不足の2点になるでしょう。
特に長打力不足は深刻で、純粋な長打力を示す指標であるISOは、広い札幌ドームを本拠地とする日本ハムに次ぐ低さとなってしまっています。
やはり長打が出ないと得点力は伸びづらくなりますし、ここ数年で丸佳浩、バティスタといった通年で20本塁打以上は期待できた選手がいなくなった影響がモロに出ている状況となってしまっています。
以下では得点圏での打撃と長打力という2点を軸に、得点力不足の要因について考察を加えていきたいと思います。
※データは全て交流戦終了時点でのもの
1.得点圏でなぜ得点が入らないのか?
得点力不足について試合を見ていて最も実感するのは、得点圏に走者を置いた状況でそこから一押し出来ない、チャンスでの弱さという部分になるかと思います。
得点圏打率を見ると、中日、日本ハムに次ぐ12球団ワースト3位と得点圏で一本出ていない状況はしっかり数値にも表れています。
ただ広島とそう変わらない得点圏打率.233である巨人は、消化試合が多いとはいえ得点数がリーグトップの阪神に肉薄するリーグ3位と、広島と違い得点力が低いわけではありません。
ではこの違いはどこにあるかというと、得点圏で生まれる長打に他なりません。
全体的な長打力については次章にて詳しく掘り下げますが、得点圏での長打という点に絞ると、広島の得点圏ISO.070はNPBワーストと圧倒的に長打が足りていません。
一方の巨人は決して高くはないものの、得点圏ISOは.152と広島を大きく上回る長打力を見せています。
得点圏で一本出ないのもそうですが、ここぞで長打が出ないためにまとまった得点が入ることもなく、得点力不足に拍車をかけてしまっているのです。
得点圏で一本出ない、かつ長打も出ないとなれば、得点数の伸び悩みは当然ですが、ここには攻められ方の問題も大きいのではないかと感じます。
無走者時と得点圏時での投球割合の比較になりますが、広島攻撃時に顕著な変化を見せているのがストレートとスライダーの部分になります。
得点圏になるとストレートの割合が2.2%減少する一方、スライダーは2.7%増加とスライダーを増やされる傾向にあります。
NPB全体だとストレートの割合は同様に減少しているものの、スライダーの割合はほぼ横ばいで、フォークやチェンジアップといった落ちる系の球種が顕著に増加の傾向を見せています。
ということから、対広島となると他球団は全体の傾向からは異なる攻め方をしてきているようです。
このような攻められ方をされることで、打撃成績にどのような変化が訪れているのでしょうか?
無走者時と得点圏時の球種別打撃成績から紐解いていきたいと思います。
得点圏になると顕著なのは打数の多いストレート(FA)、スライダー(SL)の成績悪化で、打数の多い両球種においてOPSが.100以上低下してしまっています。
特にスライダーはOPSの低下具合が最も大きく、ISOも無走者時と比べると大幅に低下していることから、他球団の得点圏でスライダーを増やす投球傾向は長打を減らすという点で功を奏しているようです。
このようにとりわけスライダーに手を焼いている様子の広島打線ですが、過去を振り返ると4連覇を逃した2019年以降は一貫してwSLはマイナスを辿っており、今季や得点圏という状況に限らない課題となっていることが窺えます。
他球団のスカウティングが浸透した結果が、今年の得点力不足に繋がっているとも言えるかもしれません。
2.なぜ長打力不足に陥っているのか?
上記にて得点圏での長打不足に触れましたが、得点圏に限らず全体的に長打は出ていません。
冒頭で触れた通り、ISOは広い球場を本拠地とし長距離打者も少ない中日や日本ハムと同水準と、長打力不足は深刻な状態です。
昨年はリーグ3位だったISOが、なぜ最低水準まで落ちてしまっているのでしょうか?
大きなポイントはゴロ率の上昇ではないかと考えられます。
上記表のように基本的にリーグ平均以下に収まっていたゴロ率ですが、昨年から上昇の気配が見られ、今季に至っては50%を超えて両リーグトップの高さとなってしまっています。
ゴロ率が上昇することで考えられることとすると、長打の減少及び得点の減少になるかと思いますが、実際どのような傾向が見られるのか、相関度を確認してみましょう。
相関係数を見ると、どちらも弱めではありますが相関関係を持った負の数値となっていることから、ゴロ率が高まると長打は減少し、得点数も伸びにくい傾向にあることが分かります。
やはり長打力を伸ばす、得点数を伸ばすことにおいて、ゴロが増えることは妨げになっているようです。
またゴロ率が高まること以外にも、長打力が伸び悩んでいる要因があります。
それはフライ性の打球の質が悪化していることです。
こちらはゴロ性の打球のOPSとフライ性の打球のOPSを球団別に比較したものですが、広島はゴロのOPSこそ1位ですが、フライのOPSは下位であることが分かります。
ですので、ゴロヒッターが多くいることでチーム全体のゴロ打球の質は上がったものの、逆にフライ打球の質が下がってしまったと言えるのではないでしょうか。
と考えると、フライボールヒッターの少なさもこの問題の一因と考えられそうです。
またこちらも冒頭にて触れましたが、チーム編成の問題も非常に大きいのではないかと感じます。
2018年オフの丸佳浩の移籍、新井貴浩とエルドレッドの引退、2019年途中のバティスタのドーピング違反による離脱で、一挙に長距離打者が減少してしまいました。
これを補填しようにも、メヒアやクロンといった外国人打者が今一つハマらず、ドラフトでも長距離砲候補の指名は中村奨成や林晃汰といった高校生のみと時間のかかる素材の指名となっています。
という事情より長距離打者が3連覇時と比べると空洞化してしまい、現状へと繋がってきているのです。
3.どうすれば得点力は向上していくのか?
ではこのような状況を脱するには、どうすればよいのでしょうか?
直近で言うと、貴重なフライボールヒッターでかつISOはチームトップのクロンのNPBへの適応は欠かせない要素になるでしょう。
右方向への一発あり、苦手の変化球を安打にするケースもありと、少しずつではありますが適応の可能性を見せてきています。
残念ながら二軍降格となってしまいましたが、降格後の出場2試合連続で本塁打を放つなど、状態が決して悪いわけではありません。
近いうちの再昇格も見込まれますが、今度こそ爆発する姿を見せてもらいたいところです。
また変化球の多い攻め方に対応するために、変化球打ちが得意な打者の重要性が増してきています。
となると、本来ならどんなボールにも強い鈴木誠也の復調と、ストレートよりは変化球打ちが得意な菊池がポイントゲッターとして機能する必要があるでしょうし、曲がり球に強さを見せる林も打線における重要なピースとなってくるでしょう。
中長期的には、小園、林、宇草、坂倉ら潜在的に長打力も備えるゴロヒッターの若手野手が、どれだけ打球角度を出せるようになるかが重要になってくるはずです。
打球速度は決して低くない彼らの中から、打球に角度を付けられる打者が複数名出てくれば、再び重量打線を作り上げることも決して不可能な話ではないでしょう。
ここに、現時点では中村奨成くらいしかいない右の長距離砲候補が加わってくれば、さらに強力な布陣が敷けることになるはずです。
データ参照